【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　大掛かりな設営が終わった。細々とした作業が残る中、檜扇舞華に声が掛かった。スタッフの一員として労を惜しまずに働いたことが認められ、代表として挨拶を求められたのだった。
「それでは支度をしてきます」
　余裕を垣間見せる笑みで奥に引っ込んだ。
　三十分後、舞華の姿はライヴステージにあった。赤くて長い髪を伸ばし、緑褐色の軍服に身を包んでいた。マイクスタンドの前に立つと柔和な顔が一変した。傲慢な笑みで目を見開く。

「おはよう、ネコミケ大隊諸君！　大役を任された少尉です！」
　役に合わせた台詞に運営スタッフが沸いた。惜しみない拍手が送られた。舞華は手で制して話を進める。
「会場前に長々と語るのは本意ではありませんが、各隊員の気の緩みが大きな事故を引き起こし兼ねないとの大隊長からの指示で今一度、作業や方針が書かれた資料に目を通していただきたい」
　スタッフ達は事前に配布されたマニュアルを開く。舞華は見回して自分用の一冊を掲げた。
「資料の三頁に注目！　これから私が読み上げるのであとに続くように！」
「イエッサー！」
　最前にいた若いスタッフの一人が敬礼で答えた。舞華は一瞥して満足そうに頷いた。
「ネコミケ大隊、隊務きそーく！」
　大勢の復唱が会場に響く。
「ネコミケは皆で作り上げるものです！」
　直後に全員が一丸となって声を張り上げる。生まれた連帯感で一様に表情が引き締まる。
　朗々と言葉を続けた最後に舞華は胸を張る。ブーツの踵を合わせて甲高い音をさせた。
「では諸君、獅子奮迅の活躍を期待する！」
　興奮した面々が熱烈な拍手を送る。素に戻った舞華が小さく手を振りながら口にした。
「ネコ生配信者のマイカでしたー。不定期放送ですけど、よろしくです！　あ、それと今日のあたしのコスプレの『少女戦史』は良いですよー。皆さんもファンになってくださいねー」
「少尉姿が素敵でした！」
　近場にいた若い女性の集団が即座に反応した。
「ありがとう！　各隊員は気持ちを引き締めて、ネコミケという戦場を無事に駆け抜けてください！」
　狂喜を孕んだ鬨の声が上がる。
　夏のビッグイベント、熱いネコミケが始まろうとしていた。