【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　開場時間まで間がある。すでに人々で長大な列が出来ていた。敷物に座っている姿が多く見られ、中には自室のように寝そべる者もいた。
「これがネコミケ……人すげえ……」
　滝原レオンは遠巻きに眺めていた。トランクを左手に持ち替える。右の掌をズボンに擦り付けた。
「手汗がやべえ……」
　レオンは誰とも視線を合わせないように頭を下げて歩き出す。関係者専用の入場口でチェックを受けた。
「……緊張が半端ねえ」
　額に滲んだ汗を手の甲で拭い、更衣室を目指す。その間、何人かのスタッフを見掛けて表情が強張った。頭を下げた状態で高速のお辞儀を繰り返す。
「知り合いは、いねえよな？」
　顔を隠すようにして目的の場所までやってきた。目前で立ち止まり、レオンは周囲に目を走らせる。誰もいない時を狙って更衣室に駆け込んだ。
　閉めたドアを背もたれにして、ゆっくりと息を吐いた。
「……スパイ映画じゃねえよ」
　首筋を撫でるようにして言った。
　――俺の趣味の一つに女装があるが、今回はコスプレだ。バレても恥ずかしいことはない、よな？
　肩を上下させた。緊張を解すようなストレッチを加える。
　――去年のネコミケのコスプレは神魂の影響だからな。今回は自分の意志で特定のキャラになりきるわけで、初めての経験だ。
　レオンはトランクを開けた。女性用の黒い衣装が綺麗に折り畳まれた状態で収まっている。
「……初体験か」
　口にして頬を赤らめた。
「そ、そういう意味じゃねえ！」
　手で顔を扇いだ。数回の深呼吸を経て、着替えるか、と静かな口調で試着室に目を向けた。