【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　恵御納夏朝は前のめりになっていた上体を起こした。椅子の背もたれに身体を預けて青く澄み渡った空を見上げる。
　ぼんやりとした数秒を経て動きを速めた。『ただいま、休憩中』と書いた紙を長机の前に垂らす。
「これでいいよね」
　ブースを離れると元気に歩き出した。他のサークルの商品を見ていく。猫のグッズには目敏く反応して幾つかの小物を購入した。
「他には……そうだ」
　思い付いた先にいくと響タルトの姿はなかった。代わりに銀髪のツインテール、マーガレット・ライカーが売り子として椅子に座っていた。
「いらっしゃいませ。何をお求めですか」
　マーガレットに声を掛けられた夏朝は同人誌に目を落とす。一冊のタイトルを見て笑みを浮かべた。
「この『夏山の猫たち』って、やっぱり無邪気なねこがたくさん出てくるのかな」
「猫は一匹も出ません。擬人化した猫ではなくて、猫の名前を持つ男女の愛と友情が描かれています」
「そうなんだ……」
　夏朝は落ち込んだような声を出した。マーガレットは微笑んで他の一冊を手に取った。
「こちらの同人誌はいかがでしょうか」
「時代劇みたいな感じ？」
「こちらの『お城男子』は城を擬人化したＢＬ本になります」
　夏朝はＢＬの言葉にビクッとした。困ったような笑みで目が泳ぐ。
「城の特徴を活かした人物像は必見です。俺様系の江戸とチャラ男と見せ掛けた計算高い大阪の禁断の愛は駆け引きが最大の売りになります。正統派の美少年も数多く登場します。お坊ちゃま系の美少年、二条君とエディンバラ様の優雅なお茶会は心が満たされます」
「でも、ＢＬなんだよね？」
「内容は控え目です。露骨な表現は避けてマイルドに仕上がっています。ＢＬ初心者にオススメの青葉マーク仕様となっております」
　マーガレットは切々と語る。
「僕、そんなに慣れてないジャンルだし」
「ネコはいます。タチもいます。未知への扉が開こうとしています。一歩を踏み出して開けるのは今です」
「そのねこは違うと思うんだけど……」
　夏朝はたじろぎながらも口にした。

　間もなくして響タルトがブースに戻ってきた。
「マガレちゃん、出店でサンドイッチと飲み物を買ってきたよ。一緒に食べよう」
「タル、チェシャ先生、お帰りなさい。差し入れをありがとうございます」
　マーガレットは椅子から立ち上がってタルトを迎えた。
「僕がいない間にかなり売れたんだね。『お城男子』もいい感じ♪」
「はい、ＢＬ初心者の方にも好評です」
「そうなんだ！　苦労した甲斐があったね♪」
　タルトの屈託のない笑顔にマーガレットは穏やかな笑みを返した。