【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　響タルトは休憩時間を利用して他のサークルを巡った。猫耳に白いワンピースを合わせた姿は一端のコスプレイヤーに見える。行く先々で声を掛けられ、カメラに収まった。
「チェシャのペンネームで新刊を出しているから見に来てね。『夏山の猫たち』と『お城男子』だね。売り子さんは銀髪美少女だから目の保養にもなるよ♪」
　別れ際の宣伝を忘れない。タルトは手間取りながらも最初のサークルに立ち寄った。
「見本を見てもいいかな」
「もちろんですよ。のんこの魅力にあなたもどっぷり浸かってくださいね！」
　愛猫萌々子は両手を広げて力説した。のんこの被り物をしていることもあって自然と動作が大きくなる。
「あぃびぃちゃんの『のののガール！！』は愛に溢れてるよね～」
「溢れ過ぎて溺れそうですよ！」
「いいね、新刊を貰うよ」
「ありがとうございます！」
　タルトは手に入れた新刊を手に次のサークルへと向かう。僅かな人の隙間をコスプレの猫のように器用に擦り抜けていく。
　視界が開けた。橙色の髪をした売り子を目にすると、笑顔で駆け寄る。
「かさねこちゃん、同人誌を買いに来たよ～」

「あ、ひび、チェシャさん。いらっしゃいませー」
　恵御納夏朝はコスプレ姿で微笑んだ。
「いらっしゃったよ～。あ、やっぱり猫があるね！」
　タルトは『ねここうりゅうのおはなし』を手に取った。表紙の愛らしさに目を細めて購入を即決した。手に入れてからパラパラと頁を捲る。
「かさねこちゃんは猫をわかってるよねぇ」
「ねこは心のビタミンだよ。チェシャさんのねこ姿も可愛い」
「ありがとにゃ～ん♪」
　目当ての本を手に入れたタルトは夏朝に手を振って歩き出す。
　視界に出店が割り込んできた。鼻をヒクヒクとさせて近づいていく。
　タルトは立ち止まった。おかっぱの女の子に注目した。舟皿のたこ焼きを無表情で食べていた。堅苦しい和服ではなく、涼しげな白い浴衣を着ていた。赤い金魚の柄が鮮やかに目に映る。
「あれって、メリーさんのコスプレ？」
　横手から押されてタルトは少しよろけた。目を戻すと、女の子の姿はなかった。
「……もしかして」
　その言葉は周囲の喧騒に呑まれていった。