【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　落合まゆらがコスプレ会場に足を踏み入れた。
　ドレスに似た衣装はふんわりとして、赤やピンクの暖色系の色に鮮烈な白が加わった配色となっていた。控え目な愛らしさの奥底に秘めた力強さを感じさせる。靴に取り付けられた羽と不思議な形状のステッキは全体の神秘性を高めていた。
「あ、ミスティックアリア！」
　近くにいた三人組の少女が、ほぼ同時に声を上げた。まゆらは笑いながらウインクをした。ステッキを手の中で回し、蒼天に向かって突き上げる。
「世界に大いなる神秘の輝きを！　魔法少女ミスティックアリア！」
　よく通る一声は周囲の人々の目を集めた。
　親に連れられた子供達は興奮した様子で技名を怒鳴る。
　まゆらはステッキを自在に操りながら微笑んだ。
「ミスティックサンシャインブラスター！」
　愛らしくも凛々しい顔で技名を叫ぶ。アニメの世界の再現に子供達は飛び跳ねて喜んだ。
「次はね、水がドバーってなるアレ！」
　三つ編みの少女が小さな手足を使って伝えようとした。
　まゆらは頷くと両手を突き出してバトンを回す。表情に闘志をみなぎらせていく。
「ミスティック・スプラァァァッシュ！」
　その限界で一点を見据えて声を解き放つ。
　子供達は夢中になって拍手を送る。迫真の演技に大勢を巻き込み、まゆらは喝采を浴びた。
「なんか、凄い！」
　一人の男の子が一方を指差した。ステップを刻むように軽やかに舞う黒兎都の姿があった。弓を構えたかと思うと、素早く身を屈めて円を描くように走る。時に跳躍して青い空を背景に微笑んだ。
　声に釣られてまゆらも目にした。
「露出度、高過ぎ……」
　まゆらは軽く頭を振った。笑顔となって用意していた物を取り出した。結構な厚みがあり、一番上にはアリアの絵が描かれていた。金魚柄の浴衣を着て団扇で扇ぐような姿で笑っている。
　まゆらは名刺と残暑見舞いを兼ねて方々に配った。モチーフは一種類ではなく、別の漫画やアニメの主人公も活き活きと描かれていた。
「わたし、水着のイラストがいい」
　女の子は笑顔で右手を差し出した。左手は都を指差して、あんなの、と大きな声で言った。
「あるにはあるけど、これでいいかな」
「これいい！　ありがとう！」
「そう、ならいいけど、ね」
　女の子は、ばいばーい、と明るく手を振って両親のところに戻っていった。
「……水着は、黒歴史になりそう……」
　まゆらは意識して口角を上げた。魔法少女アリアとして元気にステッキを掲げるのだった。