【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　佐藤英二は重々しい足取りで歩いていた。背中のリュックは限界まで膨らんでいる。
　――買い過ぎたかもしれない。少し疲れてもきた。出店に寄ってみるか。
　英二はサークルに背を向けた。出店で賑わうエリアに入っていく。
　足が止まりそうになる。匂いを嗅ぐようにして一方に引き寄せられた。
　――香ばしい匂い。カレーかな。
　人々を避けながら歩を進めるとテーブルの一部が見えた。購入した物を持ち寄って飲食を楽しんでいた。
　その中の一人に目が留まる。頭頂から一束の毛が飛び出ていた。カレーを一口、食べる度に左右に揺れる。野々ののこであった。
「野音、じゃなくて野々さん！？」
　驚きながらも近づいていく。ズボンのポケットを引っ張り出し、顔をざっと吹いてから声を掛けた。
「野々さん、こんにちは。まさかネコミケで会えるとは思わなかったよ」
「英二くん、カレー美味しいよ！」
「そう、なんだ」
　思い出し笑いをするかのように英二の口元が緩んだ。
　ののこは気付かなかったのか。残りのカレーを平らげた。
「あの、よかったらだけど、一緒に回らない？　ネコミケには何度も来ているから色々と案内できると思うんだ」
「じゃあ、お願いするね！」
「任せてよ。その前に喉が渇いたよね？　飲み物を買ってくるよ」
　英二は出店で適当に飲み物を選んだ。
　――同人誌の内容と似ていて、思わず噴き出しそうになった。危なかったな。

　英二とののこは共に会場を回った。最奥のステージでは寝子島を中心に活動しているバンドが乗りの良い曲で場を盛り上げていた。
「聞くだけで身体が揺れてくるね！」
「そうだね。あ、この曲、サビがとてもいいよ」
　サビの部分にくると、ののこは緩やかに頭を振り始めた。横目で見た英二は満足そうに微笑んで曲に身を委ねた。

　ののこの希望でコスプレ広場に移動した。
「向こうに忍者がいるよ！　あっちはロボットだね！」
　くりくりとした目を方々に向ける。笑みが絶えない。ぱっと見てわからないコスプレには透かさず英二に詰め寄った。
「英二くん、あれは？」
「ゲームのキャラクターだよ」
「そんなのもあるんだね」
　キャラクターに成り切って機敏な動きを見せる者もいた。ののこは両手を広げて後を追い掛けた。

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