【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　他者と競うかのように人々が一斉に走り出す。佐藤英二は周囲に流されることなく、リュックを背負って力強く歩いた。事前に手に入れたカタログの内容は頭の中に入れてある。回る順番も大まかに決めていた。
　最初に企業ブースに足を運んだ。にゃんぷらの積み上げられた箱の量に安心しつつも行列の長さに一抹の不安を覚える。速やかに最後尾に付けた。手慣れたスタッフ達のおかげで時間のロスは最小限に抑えられた。
　続いて特撮のゴアラ関連のグッズを買い求めた。リュックにはかなりの余裕があった。
　英二は同人サークルに目を向けた。え、と声が漏れる。驚愕に近い表情で両目を擦った。
「野々さん！？」
　人の流れを無視して早足となった。近付くに連れて表情が緩み、がっくりと頭を下げた。
　英二に気付いた愛猫萌々子は椅子から立ち上がった。両手を広げて見せる。
「ようこそ！　『のののガール！！』シリーズを描いている、あぃびぃでーす！　底抜けに明るくて、キュートで強いのんこを見ていってくださいね！」
「……ののこではなくて、のんこ？」
　英二は顔を上げて聞き返す。
「のんこです！　見本はこちらになります！　のんこの新作、『Hell of the Currrrry!!!』ですよ！　なんと、不思議なカレー空間に閉じ込められてしまうんです！　脱出方法は灼熱地獄でカレーを食べ切らないとダメ！　ギャグ・カオス全開の一冊に仕上がっています！」
「じゃあ、読んでみようかな」
　英二は同人誌を受け取った。目次を飛ばして本編から読み始める。のんこの姿に目が引き付けられた。異空間に閉じ込められ、汗だくになってカレーを食べる姿に笑みが漏れる。
「主人公が元気で話に合っているね」
「そうなんですよ！　頑張り屋さんで、どんな困難にも負けない強さもあって、しかも可愛いんです！」
「うん、わかるよ。そうなんだよなぁ」
　何かを思い出しているような声を出した。
「あの、この新作を一冊。それとのんこちゃんも」
「お買い上げ、ありがとうございます！」
　英二は二冊の同人誌を購入した。リュックに丁寧に収めたあと、萌々子をじっと見る。
「どうかしました？」
「その被り物は商品ではないのかな、って」
「これは……ごめんなさい」
「あ、いいよ。よく出来てるから少し気になっただけなんだ」
　英二は微笑んで別のサークルに向かって歩き出した。目は自然に人混みを追った。
「野々さん、いないね……」
　苦笑して足を速めた。