【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　固く閉ざされた運命の門が遂に開く。
　黒いパーカーを着た黒兎都は興奮した息遣いに囲まれていた。背中には小ぶりなリュックを背負っている。本人はスタートダッシュに備えて上体を低くした。目が爛々と輝く。黒豹となって力を蓄えた。
　時を迎えた。人々が寝子電スタジアムに雪崩れ込む。都は隙間を縫うように走り、見つけたブースに駆け込んだ。長机にぶつかるようにして止まると並べられた商品に目を走らせた。
「かーさちゃん、猫の栞とシール！」
「黒兎先輩！？　あ、ありがとうございます！」
　支払いの途中で都は一冊の同人誌を指差した。
「今日は回るところが多い。内容を教えてくれないか」
「じゃあ、簡単な説明で。『かんむりからすのおはなし』は絵本風の絵柄だけど、内容はシリアスなんです。タイトルのカラスが悪さをして動物達を苦しめます。最後は逆にやっつけられて光のない暗闇に倒れ伏して終わる感じになります」
「聞くまでもないことだと思うが、ぬこは？」
「灰白猫の『きりわけてねこ』がいますよ」
　二人は笑みを交わした。
「カラスの同人誌は買いだの。懐に余裕があれば、また戻ってくる」
「はい、待っています」
　背中のリュックに商品を収めると都は黒い疾風と化した。他のサークルを矢継ぎ早に見て回る。
「……あれはコスプレ部の後輩だの」
　サークルのブースに黒山の人だかりが出来ていた。斉田珠喪はスケッチブックに向かって懸命に手を動かしている。
「今は無理かもしれん」
　名残惜しそうにして都は加速した。走りながら赤い目がブースを物色する。

　瞬間、澄ましたような青い瞳に出くわした。遠目に見る銀色のツインテールは動物の耳を想像させた。
「……上品なぬこに見える」
　都は大きな弧を描いて走り寄る。
「ここは個人サークルなのか？」
「いいえ、チェシャ先生は休憩に入っています。私は売り子として参加しています。何か気になった商品でもありましたか」
「この、『夏山の猫たち』の内容が気になる」
　都の視線の先を見てマーガレット・ライカーは微笑んだ。
「こちらの同人誌は『猫たち』とありますが、実際の猫は登場しません。ケモミミキャラでもなくて、ベンガル、シャム、コラット、パーマンなどの猫の名前を持つ、イケメンや女子達の愛と友情の物語になります」
「ぬこではないのか……」
　都は迷うような顔で表紙を見詰める。
「どうしますか」
　マーガレットは小首を傾げた。澄んだ青い瞳を都に向ける。何か物言いたげな表情となった。
　都の頬がプルプルと震えて、ほんのりと赤らんできた。
「仕方ないぬこだの！　一冊、貰う！」
「お買い上げ、ありがとうございます」
　マーガレットは青い瞳を細めて言った。