【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で｜リアクション

【ネコミケ】熱い一日の最後は星空で

　滝原レオンはコスプレ広場に向かう。嘲るような嗤いを顔に貼り付けていた。
　――まだ反応はないが、このコスプレで大丈夫だよな？　個人製作のゲームから始まったのはだいぶ前で、今はいろんな方面に進出して認知度が上がっていると思う。ネコミケに来ている者が『Destiny』シリーズを知らないはずはないよな。
　レオンは一人の青年に目を向けた。こちらに向かって歩いてくる。わざと髪を掻き上げて見せた。
　レオンと青年の視線が合う。何事も無くすれ違った。
　――気付かなかっただと！？　『Destiny/EX』のゲームを知らないのかよ。自称、小悪魔系後輩のＢＨだぞ。実は主人公を陰から助ける健気キャラで、それがなんで無視なんだ！
　歯軋りしながらレオンは足を速めた。コスプレ広場に急ぐ。
　人種が変わった。武士がいる。等身大のロボットがいた。ピンクの髪をした少女が羽の付いたステッキを振り回している。
　普通の格好をした人々はスマートフォンやデジタルカメラを手に動き回っていた。夢中でシャッターを切り、中にはサインを求める者もいた。
　レオンは生唾を呑んだ。
「あ、ＢＨだ！」
　少年が叫んだ。走ってレオンのところまで行くとスマートフォンを見せ付けるようにして振り始めた。
「撮らせてください！　お願いします！　ボク、『Destiny』シリーズのファンなんです！」
　レオンが答える前に続々と人が集まってきた。衣装の完成度の高さに、おー、と声まで上がる。
　レオンは嬉しさのあまり、くるりと回ってポーズを決めた。

「やっほー、小悪魔系後輩のＢＨちゃんでーっす！　甘えん坊のみんなの望みを叶えてあげる。素敵に撮ってよね」
　どよめきが起こった。各自が持ち出した物で一斉にシャッターを切る。レオンの黒い衣装を鮮烈な白い光が染め上げてゆく。
「みんな、慌て過ぎよー」
　レオンは片方の口角を上げた。蔑むような目を向けると、もっと傲慢な感じで、と要望が飛び出した。
「おねだり上手なんだからぁ」
　レオンはロングブーツの一方を前に出した。中腰の姿勢になって相手を下から挑発するような顔で嗤った。
「ご褒美です！　ありがとうございます！」
「困った子豚ちゃんね」
　甘い囁きに少しの毒を盛る。その台詞に大勢の者が興奮した声を上げた。
　――なんだ、この楽しさは。癖になりそう。
　静かな興奮に包まれた。レオンはＢＨに成り切って甘い毒の言葉をばら撒いた。