生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

「話に夢中で、こっちにまったく興味なさそうな……いやいや、これも信頼あってのことだ！」
「なに、ぶつぶつ言ってるんだ？」
外野の無粋な突っ込みにも新井すばるは動じない。
「いいんだよ！　あえて無関心を装う君に、必ず優勝を捧げるんだ！」
こちらに背を向けるブリジット・アーチャーと会話していた橘舞が気づいて、手を振った。
「ブリジット？　新井さん、がんばってますよ」
「あーそうね。意外といけそうなんじゃないかしら……それで、その話ってどういうこと、あずさ？」
舞がせっかく話を振っても、ブリジットは理事長の話に夢中のようだ。
「もう……ブリジットったら。そういえば、御剣さんや円さんも参加しているのね」
舞は地獄部屋に声を届けるマイクを手に取り、友人と参加者たちに呼びかけた。
「涼しい場所からで失礼します。新井くん、御剣さん、円さん。がんばってくださいね。参加者のみなさんも、無理をなさらずベストを尽くしてください。応援していますね」
心からの声援、邪気の欠片もない笑顔。期せずして舞の『えんじぇるすまいる』が発動する。彼女の笑みを目にした参加者は、熱気のこもる地獄部屋から春の日差しやわらかな花畑にいるような錯覚を得た。このとき目を開けていた者たちに限っては、実際よりも少し長く持ちこたえられそうである。
「さすがお嬢様、癒し系だねー！」
三ヶ島葵は舞の微笑を見てそんな感想をもらす。心和んだところで、彼女は彼女なりのいかした『応援』を地獄部屋に送るつもりでいた。

「うわっ、あっつー……こらキツイわ」
　『理事長のでっかい家』に興味津々でやってきた東中居陽二。がまん大会に出るからには優勝を目指すと決めていたが、予想以上の鬼仕様に少し心がくじけかけた。だが彼に秘策あり。
「こんなんじゃアクセが熱でやばいから、外しておくなー……っと」
陽二はさりげなくつぶやきながら、アクセサリーを次々と外し、座布団の四隅に埋め込むようにそれらを配置していく。傍目には、多少不自然ではあるが、大切なアクセサリーを失くさないように自分のそばに置いておいたように見えるだろう。
「これでよし」
四つの私物が結界の頂点となる、陽二のろっこん『俺の聖域』の発動条件は揃った。自分が許可したモノしか入ることができない結界。
（発動せよ！　『俺の聖域』！）
陽二は小さくにやりと笑う。ところが、効果がどうにも感じられない。『ひと』が見ているせいというよりも、物体、物質でない暑気や熱気は『俺の聖域』では防ぐことができないようだった。
「効いてないな……というか、これって効果が出ているのか？」
他の参加者よりは確実に楽な環境を手に入れられると思ったものの、あてが外れる。ひょっとしたら効いているかも知れないと希望的観測に頼りつつ、結界の頂点のアクセサリーはそのままにしておいた。いまさら拾い集めても怪しまれるだけだろう。

「さあ！　汗を流して水分補給も済んだな！　次は塩分と栄養補給！　鍋焼きうどんッ、タイムだぁー！」
　宇佐見望月のコールに合わせて、鍋焼きうどんの入った小型の土鍋が人数分運び込まれる。ずらりと並んだうどんに対して、極楽部屋からは無責任な拍手と満面の笑顔が注がれた。さわやかな笑顔からは、『早く食べて悶絶する愉快な姿を見せてね』という無言の圧力が感じられる。もしくは、『早くあきらめてこっちに来てもいいのよ』という堕落のささやきだ。
「俺様特製、キムチ入り鍋焼きうどん、召し上がれぇッー！」
暖かいうどんつゆの香り、うどんの香り、そして熱気むんむんの部屋に充満するキムチの香り……。地獄部屋は新たな段階へと進みつつあった。