生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

　この日、寝子島の名士の家に生まれし桜栄あずさ主催により、『アンチ納涼がまん大会』が開催された。寝子島高校理事長を務めるあずさは、寝子高生を中心に、この初夏の突発イベントへの参加者を募集。結果、多くの寝子高生が、会場として解放された桜栄邸の一室に集まった。
……ただし、二手に分かれて、であったが。

「みんな好きね、よくやるわねえ。まさか地獄部屋参加者の方が圧倒的に多いなんて」
　あずさ理事長はころころと笑っている。がまん大会の名に不似合いな、パーティドレス姿の彼女がいるのはもちろん『極楽部屋』、アンチ納涼がまん大会の観戦者のために用意された最高の環境だ。すわり心地のよいソファ、瀟洒なテーブルの上には上品な冷たいデザートと飲み物。正面はガラス張りになっており、がまん大会会場がよく見える。備え付けのマイクを使えば、向こう側と会話をすることも可能だ。
「よく言うわ、あずさ。このイベントに合わせてわざわざ部屋まで改装するなんて」
呆れ顔を作って見せるブリジット・アーチャーは、すでにソファに腰掛けている。数奇な体験が彼女の趣味を変えたのか、絢爛なチャイナドレスに身を包み、いつもとはずいぶん趣の違う装いだ。流れるような脚線美を惜しげもなくさらし、上品なしぐさでドリンクに口をつける。
「やるからには、妥協はしないものよ。そうでなければ彼らに失礼だわ」
あずさは腰に手を当て、胸をそらしてびしりと会場、通称『地獄部屋』となる空間を指差した。暑さのイメージを盛り上げる暖色系のじゅうたんに赤い座布団、これ見よがしに置かれた大型ストーブはすでにあかあかと燃えている。
「酔狂ね。でも、私はそういうの、好きよ？」
「見ている側も飽きさせないつもりよ。いろいろ仕込んであるから、お楽しみにね」
あずさはブリジットにそう答える。ブリジットはあずさの言葉に満足して、思わず笑い声を上げるのだった。

「まあ、ブリジットったら……すっかりはしゃいでしまって」
　傍らの橘舞がブリジットを諌める。
「マンガ大会が始まるからなんて最初言い出して、どうしたのかと思ったんですよ」
「ちょっと聞き間違えただけじゃない！　舞も意地悪ね」
からかう舞に、ブリジットはふくれてみせる。天然ボケか本気だったのか、彼女が「あずさが納涼マンガ大会をやるらしいわ。ホラー限定とかなにかあるのかしら」などと言い出したときには、舞は本当に驚いてしまったのだ。舞とブリジットのやり取りを、あずさはおもしろそうに見ている。
「まあまあ、許してあげてちょうだい。彼女にはこの大会に参加する勇敢な戦士を推薦してもらったことだしね」
あずさのにんまり笑いに、舞は目をぱちくりとする。
「そういえばブリジットは新井さんを推薦したとか……」
「ええ、そうよ。すばるならほら、炎天下に着ぐるみ着ててもぜんぜん平気だったし、おもしろいんじゃないかと思ってね」
ブリジットは自信満々に答える。舞は新井すばるの様子を思い出した。ブリジットが自ら、がまん大会に最適の人物としてすばるを紹介したのだという。そのことを伝えると、すばるはそれはもう張り切っていたのだ。ほかならぬブリジットの推薦という点が、彼にとってはとても大きいのだろう。応援したいと思いながらも、舞は少し心配になる。
「無理されないといいのですけど……」
地獄部屋は空気の色すら違いそうなほど暑そうだ。開催時間が近づくにつれて、次第に部屋の中は人で埋まりつつあった。

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