生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

「飯も食った！　暑さも慣れた！　エアロビタイム、楽しんでいるかー？」
　ずむずむとドラムとベースが足腰に響く、ダンスミュージックが流れ出す。途中から宇佐見望月の選曲による、DOG110のポップなヒット曲『トイプードルと雑種』へ、そして最後には某ブートキャンプのような激しさを要求するハードスタイルの選曲へと変化している。この最中にも室温は鬼の計らいによりじわじわと上げられているのだが、最初から酷暑の中にいる参加者たちには気づくのが難しいことだった。『俺の結界』で身を守っていたつもりの東中居陽二も他の出場者同様、じわじわと追い詰められつつあった。これはまずい、と思った矢先。
　「あ！　やっべ……！」
　この暑さの中、どてら姿で飛んだり跳ねたり、体を伸ばしたり。つい加減が効かなくなって、むやみに体を動かしているうちに、陽二は頼みの綱の結界の頂点、アクセサリーのひとつを蹴っ飛ばしてしまったのだ。『俺の結界』の効果はこれまでの間、まったく感じられてはいなかったが、ひょっとしたらという思いがあっただけに、自分でアクセサリーを飛ばしてしまったのはそれなりにショックだ。はっと大きく息を吸い込んだせいで、むせるような熱気が一気に陽二の喉を通る。湯気も出ないほどの熱気を体内に叩き込まれ、げほげほと、咳き込みながらエアロビクスを踊る羽目になる。
「あらやだ！　どうしたの、体調が悪いのかしら？」
のびやかな動き、弾むステップで踊りながら、尾鎌蛇那伊が陽二のそばにやって来た。
「いや！　な、なんでもないんだ！　げほっ、げほ」
焦る陽二の動きはぎこちない。熱い空気に慣れていない喉が焼けるようだ。
「陽二さん。陽二さん。無理は決してしてはいけません。今のうちに退出することをお勧めします」
早いうちに極楽部屋に移動した森蓮は、陽二にマイクで呼びかける。シャワーを浴びてこざっぱりと快適そうな様子だ。早めにギブアップした方がよかったのか、と言う考えがちらりとよぎるが、勝負に出たからには負けられない。負けたくない！
「俺はまだ平気だ！　運動してるから暑くてしんどいだけで、げっほ、ごほっ」
「うわぁ。理事長、えげつないなぁ……」
高梨煉は思わずつぶやく。だがその言葉にはあずさへの非難ではなく、むしろこうした企画を実現したことへの賞賛が込められていた。えげつないが、実におもしろい。煉はちょっぴり暗い楽しみにふけるのだった。この後さらに、煉にとってはおもしろいことが起きた。
「あー！　俺の限界前にみんなリタイアしてくれればよかったのにンモー！」
志波武道がついにはじけた。無様に倒れるぐらいなら、ひとつパフォーマンスを見せて潔く去ってやろう。そう決めた武道は、ダンス中の地獄部屋を突っ切って、極楽部屋のガラス張りの真ん前に立ち、どてらを高く投げ上げた。そのまま服に手をかけると、不思議なことに一気に衣服が剥ぎ取られる。あっというまに武道は水泳で鍛えた見事な肉体を、誰にもリクエストされていないのに自主的にさらす姿となった。
「ほらみんなこれが見たかったんだろー！　見よ！　俺の腹筋☆」
極楽部屋の女子は固まり、予想以上のパフォーマンスに煉はこらえきれずに吹き出す。
宇佐見望月は武道につかつかと近づき、その『見事な腹筋』をぴしゃりと叩いた。
「はい、志波武道君、失格ー」
武道は敗北してもむしろすがすがしい顔で、脱いだ服をつかんでシャワー室へと向かっていった。あずさはよっぽどつぼに入ったのか、げらげらと笑っている。
「はぁ。いいイベントだわ。我ながらよく思いついたものだわ」