生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

　目がかすむ。自分の吐く息が熱風のようだ。エクササイズ半ばにして、八神修は限界に達しつつあった。彼の体力でここまで持ちこたえたのなら、天晴見事と言うほかないだろう。だが、彼はここで倒れることをよしとしない。意地だけで何とか手足を動かし、エアロビクスに似ているともいえなくもない動作を続けていた。隣の霧生深雪も、かなり辛そうな様子をしている。修よりは運動神経も体力もある深雪だが、やはり負傷の影響が大きい。打撲に熱など、最悪の環境だ。
「あーくそ！　天国部屋の奴らムカつく……！」
珍しく、いらだちをはっきり現すほどになっていた。もう何をしても、傷が痛む。熱にさらされて相当に朦朧として来ていた。
「俺のこと煽った連中の顔、全員覚えたからな！　後でどうなるか、わかってんだろう……な……」
ぎらりと深雪の赤い瞳が、それだけで人を倒しかねない殺気を放った、かと思うと、幕がかかったように曇る。踊る姿勢横に崩れ始めた。
「ミユ……死ぬなー……俺……も……」
それとほぼ同時に、ついに修の体も大きく傾ぐ。二人は互いの肩に頭をもたせ掛けるような姿勢になり、その後後ろに並んでずしんと倒れた。
「後は頼む……」
「いや、一緒に……逝こう……」
「あっとー！　霧生選手、八神選手！　共に脱落、リタイアだぁーッ！」
そう叫ぶと望月はマイクを置いて、すぐに二人の元に駆けつけた。タオルでくるまれた深雪と修は、アップテンポなダンスミュージックを伴奏に、部屋から運び出されていく。
「てか、なんでこんなふらふらになるまでがまんしてんだ……がまん大会つってもさ……！」
望月は冷たい水の入ったペットボトルを二人の脇にはさんで冷やしてやる。

　その次に地獄から排出される運命となったのは深民実々だった。元気に飛び跳ねていたかと思ったのに、見る見るうちにしおれた青菜のようになっていく。
「も……暑さで疲れて声が出ない……」
気合注入のための大声も、それなりに体力を消耗する。エクササイズでがんばりすぎたせいか、実々は思った以上にバテてしまったようだ。
「もうダメ……ばたんきゅー」
マンガのように目をぐるぐる渦巻きにして、実々はぱたりと倒れ伏す。
「女子は僕に任せて」
慌てて上穗木千鶴が宇佐見望月に言うと、実々の元へと駆け寄り、小さな体を自らの小さな体で支えてよいしょ、よいしょと部屋の外で待つ救護班員の元へと運んでいった。
「それにしても、さっきのはなんだったんでしょうかねー!?　怪奇現象？」
実々リタイヤのしばらく前には、三ヶ島葵を捕らえていたろっこん『ミミューサ』の効力も解けていた。突然の金縛りを不思議に思いながらも、痛いわけでも命に別状があったわけでもないからいいか、と深く考えずにハイセンスなデザートをついばむのだった。

　極楽部屋は脱落者を迎えて、だんだんその人数を増していた。幸い十分な広さがあり、ソファにも余裕があるから問題はないのだが。深民実々は涼しい部屋で疲れきった体を横たえ、戦い続ける夢を見ている。水分を与えられたことも、救護班に介抱されたことも記憶にはないだろう。
「きあい、だー……ムニャ……」
志波武道はシャワー上がりのすっきりした体になって極楽部屋に入ったが、なぜかまだ海パン一丁のままだ。
「れんちゃん！　俺にそのアイスお恵みください！」
と、高梨煉に本気の土下座をしている。
「んーむ。どうしようか」
「お恵みしてもらえないと、俺の汗臭い服着せちゃうぞ！　それそれ！」
「うわっ、やめろバカ！　ジュースも作ってやるから、汚いもんくっつけんな！」
それを黙って見守るのは、霧生深雪と八神修だった。二人は意地の張り合いもどこへやら、すっかりぐったりした様子で、煉にふるまわれたジュースと桜栄邸特製のデザートを目の前に、ただただ、じっとしている。笑うことすら辛い。これ以上動けば、体力を使い切ってまた倒れてしまいそうだった。

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