生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

「さすがね、エカテリーナさん。あたしも負けてはいられないわ」
　常軌を逸した室温の中でクールな心を保ち続けることができる猛者は、エカテリーナ・クロキだけではなかった。尾鎌蛇那伊はその筋骨隆々たる大きな体を四角四方の座布団の上にきれいに正座させ、静かに暑さに耐えていた。綿で膨れたどてらのせいでさらに体が大きく見える。
（熱い、暑いと思い、口にすればそれが現実になってしまう。さらに熱さを感じるわ。心頭滅すれば火もまた涼し……）
普段なら独特の口調でトークにも冴えを見せる蛇那伊。地獄部屋での口数はぐっと少ない。無言、無想の禅にも通じる心構えで、蛇那伊はこの現実に抗わず、ただ心を平らかにして、時が過ぎるのを待っていた。よく聞けば、時計が時を刻むように、彼の呼吸は寸分の狂いなく一定であることがわかる。蛇那伊はこの精神と肉体を削る地獄部屋で、内功を静かに練っていたのだ。通常であれば戦いの技、武功に使われる高めた内功、平たく言えば気の力を、今回は本来の役割たる身体機能の調整に用いている。
　その蛇那伊の前には、他の参加者と同じように盆がひとつ。上にはお茶と鍋焼きうどんが乗っている。水分ほしさにたまらずすぐに口をつけ、噴き出す者もいる中、蛇那伊はすぐにはお茶には手を出さない。
「熱いのがわかっているもの。外気に少しでも長くさらして、温度を落としておくわ」
言いつつ、もうひとつの器に目をやる。
「さすがにこちらは待っていても無理かしらね。同じ手は使えない」
蛇那伊は覚悟を決めて鍋焼きうどんの器をつかんだ。先の事件の影響でか、もうちょっとコクのある、油っこい食べ物だったらよかったのに、などと考えてしまう。これを食べ終えたら、無慈悲なるエアロビクスタイムが始まるはずだ。全力に見える大きな動きを見せながらも、体力を温存させていかなければならない。蛇那伊は先を見据えた体力配分を考えていた。

　あの少女は一体誰か、と疑問に思うものもいただろう。今日の深民実々はトレードマークのおだんごヘアを解いておろし、眼鏡も外していて、ずいぶん違ったイメージだからだ。おだんごがない分、背も低い。
「うー……熱がこもってうなじがあっつい……髪は結んでおいた方がよかったかなぁ」
応援団に所属し、女子ながら伝統的な高い詰襟の長ラン姿でがんばっている実々だ。このぐらい、炎天下の練習、演目と変わらない。負けてたまるかと実々は闘志を燃やすのだった。が、暑いものは暑い。
「ううん、弱気になっちゃダメダメ！」
冷たい誘惑、ミネラルウォーターは見ないようにする。代わりに差し出された熱いお茶を、こらえて一口一口と飲んでいった。これを飲んだら、鍋焼きうどんをどうにかしなければいけない。まずいことに、後がつかえている状況だ。これを食べたらさらにお茶が出ると言う話も聞いた。
「あっつぅ～い……」
「思った以上にひでぇなこれ……」
周囲の声に、そうだね、しんどいね、やめちゃおうかと同調したくなる。だが実々はこんなところで倒れるわけにいかないのだ！　彼女の出場目的は、自分の根性を試すため。賞品なんてどうだっていい。自分の限界に挑戦することこそが彼女がここにいる意味だった。気合いと根性が勝利する、それを実々は自らの肉体で証明しなければならない。
「気合いだ！　気合いだ！　気合いだーっ！　うぉーっ！」
突如応援団風に叫び、自分に活を入れる実々。出場者たちはぎょっとして彼女の方を見る。