生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

　間近にいた千鳥雅人、そして佐藤英二が倒れたことで、花厳望春の気持ちもぐらぐらとし始める。
「そうだよな……ここ異常に暑いもんな……ってああ！　考えちゃダメだ考えちゃ！」
（無だ……俺は無になるんだ！）
三十分に一度の『脱いでOK、でも熱湯風呂に入ってね』タイムも断固拒絶し、やけどしそうなほど熱い茶も飲んだ。鍋焼きうどんだって食べた。唐辛子をかけてこようとする地獄の使いから、土鍋も守りきったではないか！　望春はきっと顔を上げる。するとむごいことに、望春たちの苦しみなどよそに楽しそうにしている極楽部屋の人々が目に映るのだった。女性が多く、華やかだ。いや地獄部屋にだって女性はたくさんいるが……彼女たちはいわば戦友である。対して極楽部屋の女性たちは、こちらの苦労を見てただ笑っているだけではないか。普段温厚な望春も、極限状態に置かれて思考能力が弱って来ているせいか、若干攻撃的になってきているようだ。自覚はないが、思わず極楽部屋をにらんでしまっている。
「おやおや、こちらをにらんでいるな。怖い怖い」
高梨煉はその視線を楽しむように見つめ返す。大胆にもマイクを取って、煽り返すのだった。
「いや～、ここは涼しくて実に快適！　早く俺たちの仲間になってしまえばいいのに。ジュース飲みたいやつはいるか？　来てくれたら、俺が特製のをご馳走するぞ」
ジュース？　水分、水！　ああそうだ、自分がいちばん求めてやまぬもの！　その言葉を聞いたとたん、望春の思考は水分がほしい、そのひとつに固定されてしまった。そのタイミングを見計らったように、目の前に一人の女子の姿が現れる。
「お水……飲めば失格だけど、ルールだし置いておくから」
どてら＆ビキニナースとして出場中の、上穗木千鶴が望春のもとへ、ミネラルウォーターを持ってきたところだった。目の前にひざをついて座る千鶴の手には、ペットボトルなど握られていない。だが！　あろうことか千鶴は、目の前で隙間も見えないほどの胸の谷間に自ら手を差し入れた。すると魔法のように、手品のように、みっちりと充実した豊穣なるバストの間から水のボトルが現れたではないか！　ぷるん、という擬音の立ちそうな感触を残して、ペットボトルが完全にその姿を現すと、再び胸の谷間はぴっちりと閉じた。この演出のために仕込んできたばかりのもので、ボトルはしっかり、ひんやりと冷たい。
「み……み、水！　冷たい……水ッ……！」
望春はとうとう、ペットボトルに手を伸ばす。無我夢中でキャップに手をかけ、封を切ろうと……したところで、体が横倒しになった。そのまま意識が離れていく。このがまん大会においても、望春は女難の相で始まり、
その相に深く絡め取られたまま終わりを迎えたようである。

「この辺が潮時でしょうか。私は退出させていただきます」
　相次いで脱落者が出たところで、森蓮はあっさりと立ち上がる。自分自身が無理をしては本末転倒であるし、他の者にも無理はするなと模範を見せるつもりでの途中棄権であった。
「森君はもっとがんばれるでしょう。潔すぎるわよ？」
「いいえ、私はここで限界です。もう十分すぎるほど頑張りました。そちらの部屋へ移る前に、シャワーをお貸しいただけませんか」
不満そうな桜栄あずさの声にも、蓮はいつもの調子を崩さず丁寧に、しかししっかりと自分の言葉で答えた。ガラス越しに見守る理事長と極楽部屋の面々に深々と頭を下げ、どてらを脱いで係員に渡すと、案内されて部屋を後にしていった。
「いつもは猫鳴館のドラム缶風呂ですからね。こんな体験は久しぶりです」
蓮は自分の決断に満足していたし、すがすがしい気持ちでいた。あとは清潔にして、経口補水液で水分と塩分を補給してから、地獄部屋の参加者たちを見守っていこう。蓮は運び出される生徒たちに付き添うようにして歩き始めた。