シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

●一方、寝子ヶ浜公園

　真っ青な海から吹き抜ける風は、潮の香りと耐え難い熱を運んできた。
「あ゛づいよぉ～……」
　そんな状態ゆえに、アホ毛もしなだれ、野々ののこはピクニックどころではなかった。ノースリーブに短パンという格好もまったく機能していないらしい。
「ののこちゃん……大丈夫ですか？」
　綾辻綾花はバスケットの中の小型保冷バッグからペットボトルを取り出し、そっとののこの首筋にそれを当てる。
「ひ！」
　一瞬悲鳴を上げはするが、心地よいひんやりした感覚にののこは目を細めた。
「ここはすこし暑すぎるな。向こうの木陰に移動しよう。
　野々、立てるか？」
　八神修が荷持をまとめながらののこに尋ねた。
　つば広の麦わら帽子がなんとも優雅で修らしいとののこはぼんやりした頭で思った。
「うぅ……」
「肩に捕まって」
　ののこが肩を取りやすいようにさっと屈んでくれたのは七夜あおい。
　今日はすっきりとしたTシャツと七分丈のズボンがよく似合っている。
「ありがと～あおいちゃん～」
　感動をいっぱいに伝えようとすると、また頭がクラリとした。
　修が慌てて駆け寄ってくる。
「あおいは大丈夫か？　無理、するなよ？」
「あおいちゃん、暑くないですか？」
　そっと日傘を差し出してあおいが辛くないようにと気を配る。
（なんか……なんか！）
　ののこはぷっくりと頬をふくらませて、ぎゅうとあおいにしがみつく。
「の、ののこちゃん大丈夫？」
　心配そうにののこを支えるあおい。
　修も、綾花も同じようにののこを心配してくれる。
「あ、りがと～」
　ののこは力なく微笑んで、ゆっくりと木陰に向かった。

　一見寝子ヶ浜公園は美しい公園だったが、しかし心ない人々というのはどこにでも居るのである。
「……ふぅ」　
　森蓮は愚痴ひとつこぼすこともなく、淡々とその打ち捨てられたゴミを拾い集めていた。
　麦わら帽子から真っ白なタオルを垂らし、しっかりと頭部を熱から保護している。
　何度も同じことを繰り返して他人に迷惑をかけるのは蓮の望むところではないのだから。
　そうして広い公園中のゴミを集めた頃、
「暑いのだ～、蓮ちゃんは暑くないのだ？」
　とカメラを首から下げた後木真央がやってくる。
　以前熱中症になった時助けてくれたのは彼女であった。縁があるのかもしれない。
「お声をかけてくださってありがとうございます。
　今日は対策もしていますので、ご心配には及びません」
　帽子を示してから、カバンからいくつもの水筒を覗かせた。その中には経口補水液がたっぷりと入っているのだ。
「おお、さすがなのだ」
　真央の感動の眼差しを受けて、蓮は照れながら頭を下げた。
「けれど私はまだまだです」
「そうなのだ？」
「あの方なんて、ずっとああしていますので……見習いたいものです」
　真央が不思議そうにしているので、彼女を指し示した。
　ピンクのパーカーとミントカラーのシューズが眩しい彼女。
　干車止だった。
　この暑さにも負けず、一心に走りこんでいる。
　当然のように定期的な水分補給も怠らない。
「みんなすごいのだ……真央ちゃんも頑張るのだ」
「無理はしないでくださいね」
「もちろんなのだ！」
　止に負けず劣らず走り去っていく真央を見送ってから、蓮は空腹に耐えて、もうひと頑張りするのであった。