シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

　サナリアナ・アークロットに声をかけたのは笠原七穂。寝子島高校の教諭を務めているのだが、いつもいつも見た目がまるっきり違うため、外で会うときに探しだすのは至難の業である。
　そんな彼女はキャットストリートのあちこちの店を見て回っていた。
　この間はアウトレットの夏の新作は確認したから今日はキャットストリートと思ってきたのだが、彼女もまた、いまだ運命的な出会いを果たせずに居たのだ。　
「にしても、今日は暑いわね……」
　汗をかけば化粧が崩れる。だから七穂は暑い日が大嫌いだった。
「暑い……暑い……」
　道行く人もそう呟いているものだから、ますます暑いような気がしてくる。汗が噴き出してくる。
　気合で顔に汗をかかないようにして、七穂は近くのファッションストアに入ってみた。

「暑い……暑い……」
　すれ違う人の体感温度まで上げているのは恵御納夏朝だった。
　湿気のせいでいつもより髪の毛も奔放で、猫が姿を隠していて、夏朝のテンションはだだ下がり。
　ただ、「暑い！」と叫ぶ気持ちにはなれなかった。
　理由は、まぁ、お腹も空いてきたし、喉も馬鹿みたいに水分を欲しているというものだろう。
　けれどなにひとつ欲求を満たすものを持ち合わせていない。
「あ……」
　そんな時に向かいから水筒をごくごくとやっている旅鴉月詠がやってくる。
　タイミングが悪いにもほどがあるというものだ。
「あ、どうも」
　軽く会釈する月詠。
「どうも……」
　夏朝も釣られて頭を下げながら思う。
　その水、欲しい。と。
「こんな暑い中君はどこに行くの？」
「……ちょっと散歩にな」
「そっか気をつけてね」
「ああ、プカリをたっぷり持ってきたから、たぶん平気だ」
　プカリ。国民的スポーツ飲料プカリスエットのことだ。
　ますます、夏朝は水筒が欲しくなる。
「ならよかった。ムリしないでね」
「ああ、心遣い感謝する」
　けれどここからまだ散歩をするという彼女から奪うこともできず、夏朝は近くで喫茶店を探すことにした。

　月詠がキャットロードを抜けるのと入れ違いで、真っ白なレースの日傘を畳んで、御巫時子はキャットロードに足を踏み入れた。
　風通しのいいワンピースを着てきてよかったと時子は思う。
　サラリとしたボレロも太陽から肌を守ってくれる。
　このお洋服はたしかにお気に入りなのだが、それはデザインだけが理由ではない。
　暑さや湿気をほどよく和らげてくれるのだ。
　それから肩で羽を休めている小鳥にとっても、この素材は心地がいいらしい。
「気に入ってもらえてよかったです」
　そっと微笑みかけると、くすぐったそうに小鳥は身を捩った。
「ふぅ、ここもイマイチだったわ。ダサいわけじゃないんだけど……」
　小鳥に気を取られていると、近くの店から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
　声の主は時子とは対照的な真っ赤な装いの人。
　あんな知り合い居ただろうかと考えるまでもない。あの口調、テンション、装いといえば……。
　時子は思わず彼女の肩を叩いた。

このページにイラストを設定する