シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

●こちら猫道

　アーケード街は他とはまた違った蒸し暑さがあった。
　それでもグレイのギンガムチェックのリボンは浅山小淋の横顔を涼しげに映していた。
　暑さを感じさせない薄手のカーディガンも、小淋らしかった。
　その彼女が手にとったのは涼し気なシャツワンピース。
　膝丈ほどの長さで、足は出しすぎずに、けれど長すぎもしない。
　パステルブルーのチェック柄は、嫌味でない程度に赤い差し色のあるものだった。
　小淋の白い肌によく映えたワンピースを眺めながら常闇月は頭を振った。
（ぼんやりしていてはいけませんね……！）
　今は護衛の最中。ぼんやりとしていては小淋になにかあった時に後れを取ってしまう。
　自身の欠陥をひとり恥じていると、小淋がにこりと微笑んだ。
『月さんならこういった洋服も　似合いそうです』
　月にそっと差し出された手帳には、そう記されていた。
　彼女が選んでいたのは、月の服だったらしい。その文字を見て初めて気がついた。
　色も、柄も、形も普段ならば月が手に取らないようなもので、戸惑いを隠せない。
「似合いますか？」
　もちろんのことだが、月は今も、色味の少ない格好をしている。
　とても月自身には、小淋が差し出した洋服が似合うとは思えなかった。
　けれど小淋が嬉しそうに月にその服を当てているので、「そうは思わない」というような否定的なことを瞬時に口にだすことはできなかった。
　その時、やけに派手な女が店の前で立ち止まる。
　金髪碧眼……だけならば寝子島でさほど珍しくはないが、灼熱の太陽よろしくの真っ赤なミニワンピースに、十センチはあるだろうパンプス。
　なんの趣味なのかカバンを手錠で自分の手首に繋いでまでいる。
　反射的に月は小淋をその女から隠すように立った。
『どうかしましたか？』と小淋が服の裾を引っ張ってきた。
「……いえ、考慮してみます」
　話をそらすように頷くと、小淋はリボンを揺らして頷いた。

「……女優さんみたいですね」
　サナリアナ・アークロットは適当な服を手に取っては戻してを繰り返していた。
　新しいお洋服を見繕っていたのだが、いまひとつ興味お引かれるものがない。
　そんな風にぼんやりとしていた時に目に飛び込んできたどぎつい赤のインパクトは凄まじかった。
　憧れではないけれど、驚きにあふれたつぶやきはその女性の耳に届いたらしい。
「イケてるでしょ？　ありがと」と真っ赤な唇が弧を描いた。「でもどうせならモデルって言って欲しいわね」
「モデル、ですか」
　まさか声をかけられると思っていなかったため、サナリアナは目を丸くした。
　そのまま女性は立ち去っていくが、立ち去ってから、そういえばどこかで見たことがあるようなと首を傾げるのだった。

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