シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

●廃ビルは静やかに

　神無月文貴は廃ビル内を走り、もとい歩き回っていた。
　走ったら転けて、叫ぼうとしたら痰が絡んで。
　なんだなんだ今日はどんな厄日だよ。
　その上、竜平ともはぐれてしまった。
　勘弁してくれよと神無月文貴は近くの廃材を蹴り飛ばそうとする。
　が、いっそ見事なまでに軌道がズレてしまう。
　大きくため息をつくと、話し声響いてきた。
「……なぁここであってんのか？」
「俺の言うことが信じられねぇのかよ」
「そんなことないけどよぉ」
　阿呆みたいな話し方をする奴だ。
「あー？　今の見たか？　すっげえダサくねぇ？」
　訂正。阿呆だった。
「そんなイケイケの見た目で中身ダサダサとか、マジダセェ！」
　そう言う奴らはいかにもと言わんばかりの見た目だ。
　白に近い金髪に染めて、傷みきった髪の毛に、トランクスが半分見えている腰パン。
　耳には筋トレかと問いたくなるほどピアスが垂れていて、鼻ピアス、口ピアスもそれに続く勢いを感じる。
　そんな奴らに見た目に似合わずと文貴は称されたが、奴らの方は舌っ足らずで語彙が貧弱で、中身も見た目通りだと思われた。
「なぁ。中身に釣り合うようにしてやろうぜ？」
「おお、それは天才の発想だねぇ。てわけで、金目の物寄越せよ」
（今日はなんて日なんだ）
　文貴は舌打ちして、迷わず懐に手を入れた。
「おお、素直でいい子じゃん！」
　喜ぶ阿呆には笑顔の餞別を送る。
「誰に向かって物言ってんだ」
　取り出したのは黒光りしたアレ。
　相手に驚く暇も与えず、引き金を引いた。
　つもりなのだが、どうしても引けない。
「なんだよ、玩具かよ！」
　相手は馬鹿にしたようににじり寄ってくる。
　おかしい、きちんと手入れはしているはずなのに……。
　仕方がないと拳を振り上げるも、こちらも調子が悪い。
「しゃあねえ……」
　逃げるが勝ちだ。
　ジニー・劉に負けない身軽さでその場を去った末に辿り着いたのはマリアの聖域であった。
　聞こえてくる声は、、聞き覚えがあるものだった。