＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）｜リアクション

＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）

●雪魔狼戦・３～周到な準備、冷静な戦い方

「群れで狩る狼は各個撃破のチームみたいなものだ。先立って逃がしても突破されたらどうしようもなく目的地に着いてからの戦闘の可能性もある。ある程度下がらせただけの方が手が届きやすい」
　楓は自らもナイフを抜くと、ユチェンに雪魔狼戦の考え方を伝える。
「数を減らせして行けさえすれば何とかなりそうな気がする。先生らの方におそいかかられても困るし、精々目立つように囮として立ち回ろうかね」
「ハイ！」
　ユチェンは楓に呼吸を合わせるように努めた。
　楓の投げナイフに合わせて自らもナイフを投げる。
　ユチェンの腕は確実に上達していた。
　狼たちはナイフを避けるために飛び退り、結果、楓とユチェンの願う方向に導かれている。

　狼たちと並走するように犬橇を走らせていた修が楓とユチェンに、顎をしゃくって合図を送った。
　楓はその意図をすぐさま読み解く。
（なるほど……氷の庇の下に誘導しようってか）
　了解だ。
「ユチェン、やれるな？」
「ハイ！」
　楓とユチェンは同時に氷上を蹴った。
　跳びかかってきた緑と黄色の狼の進路上を交差するようにワイヤー付きのナイフを投げる。
　ワイヤーはバリケードテープの役目をし、狼の進路を妨害すると同時に、目的地方向へと誘導する。
　二匹の狼たちが、氷の庇の下に入った瞬間を狙って、修は自分の橇と狼との間に、水の入った瓶を次々と投擲した。皆が戦っている間、地形をくまなく観察し、ここだ、というポイントは見つけてあった。
　氷庇の下の、隠れたクレバス。
（前後にクレバスがあればあるって事さ）
　水瓶の狙いは、狼真下のクレバスの口を開けさせること。
　落下の衝撃が氷面崩壊のトドメとなるように投げた重量のある瓶は、狙い通り、氷面にヒビを入れた。
　その瞬間を見計らい、修はろっこん＜分解＞で氷庇をバラバラに崩す。
　氷庇は、ゴッ！　と大きくひび割れ塊となって、狼たちの頭上に崩れ落ちた。
　憐れ、狼たちはなす術なく、氷の塊もろとも足元に開いたクレバスへと吸い込まれる！

「よし、まずは２匹！」

　この衝撃で、あたりは雪と氷の飛沫の白で、けぶっていた。
　そのなか「うわ！」と声が上がった。
　亮の声だ。
　雪飛沫の晴れた瞬間、夏夜の目に飛び込んできたのは桃色の狼に胴体を噛みつかれている亮の姿だった。
「に、新田君！！」
「だいじょうぶ、だ。こんなことも、あろうかと、防刃チョッキ、着てる……よっ！」
　語尾にひときわ力を籠め、呼吸を止める。
（７．９倍！）
　脳内で唱えるのは現時点でのマックスパワー。
　無呼吸中に身体能力を強化する＜鬼人の体（サード・フォース）＞が発動する。
　亮は桃色の狼の首根っこを強化された握力で掴むと、そのままぐぐぐと持ち上げて自らの身体から放した。
（悪いが、――飛べ！）
　まるで布切れでも放り投げるかのように、桃色の狼を宙高く放り飛ばす。
　空中では、さしもの雪魔狼もなす術がない。
　両手足をばたつかせて落下し始めたところに、夏夜が猫シールを飛ばして張り付けた。
「重く、なれ！」
　桃色の狼にとって不運だったのは、真下が丁度、氷の薄いところだったことだ。
　重くなった体は薄氷を突き破り、冷たい海中へどぶんと沈んだ。
　めいっぱい重くなった狼の身体が、浮き上がってくることは無かった。
　倒さなくてもいい、退けられればいい、と考えてはいたが、退けるだけというのもなかなか難しい。

「ところで本当に大丈夫なの、新田君」
「なに、かすり傷さ」
　亮は強がって鼻の下を擦る。
　本当は狼に噛まれたときに服が破けたせいで寒くて、今にもがちがち歯を合わせてしまいそうなのだが。
「それより、残りは？」
　夏夜ははっとしてあたりを見回した。
「そういえば……残りの二匹は、どこ？」