＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）｜リアクション

＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）

●雪魔狼戦・１～準備

　白き陽光の反射が眩ゆい氷上に、蜃気楼めいて不穏に動く影が複数。
　それが、雪魔狼（ホワイト・ウルフ）と呼ばれる魔物の群れであることを、カーキー隊の一同は知っている。
　八神修は橇を駆りながら冷静に分析する。

「俺たちの行動を阻止しに来たのか。それだけ絶神にとって不利益があるということか」

　自分が敵なら、と修は考える。
（謎を餌に邪魔者――俺達――を呼び、先生も連れてこさせ、ミラを害する。そうすれば邪魔者は帰還不能で死ぬし楽に色々手に入るだろ）
　ミラと四十九院先生はゴンザレス隊とともに先に行ったが、彼女たちの安全は必ず守らなければいけない。そのために、ここで魔物の追撃を完全に抑える必要がある。

「ざっと見たところ、海氷は薄くなっている箇所があって、割れたり動いたりする箇所があるわね」
　朝鳥さゆるもまた、クールすぎると感じられるほど冷静冷徹に状況を見ていた。
　防寒具の下、腰に差した鞘に鳳凰のあしらいのあるサーベルの柄に、いつでも抜けるよう手を添えてある。
　狼たちは集団戦法により、氷の薄くなった場所へ誘導して獲物――私たちだ――の動きを封じ、分断した上で確実に仕留めるつもりだろう。体毛が白く、ちょっと目を凝らしたくらいでは見極めがつかないのも敵にとっては有利だ。
「慌てて動けばそれこそ敵の思うつぼね」
「その通りだ、出来るだけ足場のしっかりした場所へ誘い込み迎え撃とう」
　四十九院先生に扮したサキリ・デイジーカッターが、敵の影を見据える。
「それなら、あそこ」
　さゆるは指さす。
　よく観察すれば氷が薄くなっているところとそうでないところでは、氷の色が違う。
　青みを帯びた海が透けて見えるところは危険だ。
　逆に言えば、氷の厚いところに敵をおびき寄せればこちらに有利に戦える可能性も増す。
　黒く目立つサキリが、すぐに瞬間移動でその場所に移動した。敵の注意を引きつけるためだ。
　修はカーキーに命じて、犬橇隊をサキリが立つポイントへ向かわせる。
（橇と狼、どちらが早いだろう）
　恵御納夏夜は装備の最終チェックをしながら考える。
　幸いなことに、足場の確かな場所に先に着いたのはカーキー隊だった。
　犬ぞりは修に任せて、一行は橇を降り、待ち構える。
　そのとき、物音に気を配っていた伏見真が、目視より早く、敵の接近に気付いた。

「敵さん、来よるよ！」