NECO MUSIC FES 1370！｜リアクション

NECO MUSIC FES 1370！

　汗みずくになった頭からタオルを被り、北里雅樹は屋台で買って来た冷たいスポーツ飲料をあおる。簡易的に設置された小さな天幕ではあるものの、バイト専用の休憩所があるのはありがたい。
「恵御納も、お疲れ」
「お疲れさまです」
　休憩所の隅の折り畳み椅子に座り、こちらも屋台で買って来たらしい練乳たっぷりのかき氷を黙々と味わう恵御納夏朝に声を掛ける。
「今ステージに上がってるガールズバンド、結構な人気だな」
「寝子高軽音楽部、ですね」
「ん、そうか」
　適当に評して頷いてから気づいた。基本的に無表情に見える夏朝の顔が、今は少しだけ嬉しそうに華やいで見える、気がする。
「もしかして知り合いとか？」
「友達、です」
「そっか、盛り上がってんな」
　暑さに疲れた体に音楽とスポーツ飲料が染みわたって行くのを感じながら、雅樹は天幕の外へと視線を投げる。真っ白な砂浜に青い海とくれば、

(お、ナイスバディ)
　もちろん水着の女の子たち。寝子ヶ浜海岸でのお祭りの何が雅樹にとっての一番かと言えば、そこは当然、女子の水着姿を鑑賞できる点にある。始終眠たそうな人畜無害そうな顔をしつつそれでも立派な年頃の男子であるところの雅樹はさり気なく行き交う水着の女子をチラチラ見遣る。この『さり気なく』というのが重要ポイント。だってジッと見つめてしまえばそれこそ問題案件になってしまいかねない。
(暑い中働いてるんだし)
　目の保養は必要だ。そうすることで休憩時間後の仕事も張り切って出来るというもの。
「……ん」
　タオルの影から女の子鑑賞に勤しんでいた視線がふと見覚えのあるスレンダーな肢体を見止めた。しなやかな筋肉を纏ったスポーティな身体にシンプルな迷彩柄のセパレート水着、暑さをものともしないようなショートの黒髪に、音楽の海の真ん中を行きながら不愛想な瞳。肩に掛けたクリアバッグの中身はたぶん、必要最低限のものしか入っていない。
「どうかしましたか」
　呟きを聞いた夏朝に尋ねられ、雅樹は何でもないと首を横に振る。
(あいつ、ネコフェスなんかに来るのか)
　幼馴染であり元彼女でもある椎井莉鳥の姿を視線だけで、彼女の姿が人込みに紛れるまで追う。
(いやまあ、)
　声を掛けようとして、やめる。
(椎井が何をしようが自由だろ)
　彼女と自分にはもう何の関係もない。
　それに、と声をかけない理由を考える。
(それに俺も仕事だし)
　それに、と瞳を伏せる。幼馴染の気安さもあっていつもつい声を掛けてしまうけれど、――
(椎井もわざわざ俺の相手をする必要もない)
　小さく息を吐き出していることに気づき、雅樹は唇を押さえた。誤魔化すように大きく伸びをしてスポーツ飲料を飲み干す。よし、と仕切り直すように自分に言い聞かせる。
「仕事に戻る」