夏の思い出、ください……ゲームショップで｜リアクション

夏の思い出、ください……ゲームショップで

　吉住志桜里と卵城秘月は、連れだって『クラン＝G』の店内にいる。
　なるほど確かに大きなショップだ。プラモデルやモデルガンもあるが、おそらく主力商品のボードゲームは種類豊富で、海外直輸入のものも少なくない（ほとんどのものには日本語対訳もついている）。
「ゲームをお探しですか」
　声をかけられて振り向くと、落ち着いた物腰の、しかし小学生くらいの少女が近づいてきた。店のエプロンを巻いている。
「そうですね。二人でも遊びやすく、笑いの起きるものがいいんですけれど」
　志桜里が言うと、
「承知しました」
　店員（三佐倉千絵）はふたりを空きテーブルのひとつに案内した。
「その条件でサンプルを色々持ってきます。どうぞ、お試し下さい」
　千絵はそそくさとカウンターのところに戻っていった。
「よくできた子だね。抱けば折れちゃいそうに細いけど」
「本当にサバ折りとかしたらだめだからね」
　などと秘月と志桜里が言っているうちに、千絵は色々とテーブルに並べはじめたのだった。いずれも簡単な手書きの説明書つきである。
「へー、これなに気になる」
　さっそく志桜里が手にしたのは、飲み物の紙パックを輪切りにしたような積み木だった。
「これを組み合わせて商品名を作るって趣向だね」
　興味深い、と秘月が言うと、
「先手参りまーす」
　と志桜里がひとつ作って示した。
「『てんかにとどろくおうのミルクティー』、どう秘月、これ強そうじゃない？」
「天下？　どのあたりの客層をターゲットにしてるのそれ？」
「やっぱ王様って感じ？　俺様王様ティーご馳走様」
　突然のライムに秘月は苦笑しつつ、
「世間にそんなに王様いないし……ていうか、さすがに長くて覚えづらいんじゃないかな？」
　とごくまっとうな言葉を返した。
「じゃあ秘月の番っ」
　はいはい、と軽く整えて秘月が披露したのがこれだ。
「『カルシウムはじめました』」
「あ、なんかそれ実際にありそう。覚えやすいし」
「うんうん、シンプルなのは良いことだ」
　我ながら改心の出来だと思う。健康によさそうなのが一目でわかるのも特徴だ。
「じゃあ勝負は秘月の勝ちでいいよ。そのかわり『カルシウムはじめました』が発売されたら一本おごってよね」
「勝ち負け競ってたっけ？　というかなぜ勝った私がおごるという話に！？」
　つづいて何度か試行錯誤してみる。
「『真夜中のソイミルク（高脂肪）』なんてどう？　風格ない？」
「どこに風格があるんだか。というか真夜中にそんなもの飲みたくないね」
　そんな感じのやりとりを続けているうち、
「これ、じわじわ変な笑い出てくるわね。よし買いましょう」
　志桜里の意見に秘月も同意した。
　まずは一点、納得のお買い上げである。