岩にしみ入る蝉の声、そうつぶやいてみるとそれなりに風流な気にもなるけれど、実際のところ閑(しずか)さのカケラもない都市部の夏にあっては、蝉の声などミュート機能のついていないノイズ以外の何物でもない。
そもそも、しみいる岩すらないのだし――。
三佐倉 千絵(みさくら・ちえ)はため息をつき、読んでいた新書本から顔を上げた。
松尾芭蕉とその弟子曾良を描いた小説本。史実にもとづいてはいるが、かなり大胆な発想の飛躍が加えられており、描写こそソフトながらほとんどBL本だったりする。
丸眼鏡をついと上げて壁掛け時計を眺める。
アメコミキャラクターがどーん(アメコミ的にはKABOOM!か)と描かれた愉快な色調の時計だが、千絵にとっては特に感慨もわかない、見慣れた時計だ。
白い縁取りの入った緑のエプロン、胸には『G』のロゴマーク。今日もこれを巻いて千絵は、父親の経営するゲームショップ『クラン=G』のカウンターに立っている。
家業手伝い、いまどき感心な少女、あるいは、店長代理は小学生……呼び方は自由だが、要は体のいい家族従業員(無給)だ。
押し戸が開いて、カラン、と音を立てた。
「いらっしゃいませ」
千絵は無感動な声を出す。というかむしろ冷淡な声を。
「なんだなんだ~、千絵ちゃんテンション低くね?」
にししっ! と特徴的な笑い声をあげて、
野菜原 ユウが入ってきた。
「……いつも通りです。あと、tensionは『緊張』という意味なので、高いも低いもありません」
「へへー、あいかわらずクールじゃーん」
霜が降りたような口調を受けてもユウは一切動じず、いやむしろその反応を楽しむように、嬉しげにカウンターににじりよった。
「注文したメタルフィギュア、入ってる?」
「入ってません。入荷したらメールでお知らせします。またどうぞ」
「ちぇ。まー、せっかく来たからなんか見てくかー」
ユウは首の後ろに両手を当てて、
「オタクっぽいかもしれないけどさー、海外のメタルフィギュアって独特の味があって、工芸好きの俺としちゃー気になるんだよね-」
などと言いながら店の奥に入っていく。
「ヘイユー!」
間もなく、また寝子高生が姿を見せた。
「千絵ちゃーん、今日こそはユーの連絡先教えてもらうッスよー」
南波 太陽だ。特徴的なへろっとした笑顔を見せ、なぜか横向きのVサインを出している。馴れ馴れしいといえばこれ以上はないだろうが、彼の場合、その不作法さも含めてなんとなく許したくなるところがあった。
けれど千絵はにこりともせず、
「お断りします」
と投げ捨てるように告げて読書に戻ったのだった。
「あのね南波くん、僕のホームグラウンドのひとつであるこの店で、そういうナンパじみた行為はつつしんでくれたまえよ」
太陽をいさめるのは、同行者の
鷹取 洋二だった。
「なんだか彼、前回僕にくっついてここに来てから店が気に入ったようでね……僕に免じて許してくれよ。今日もトレカ、いっぱい買うからさ」
ふふっ、と洋二は特徴的なワカメ頭をかきあげ、では参ろうか、とトレーディングカードコーナーに向かう。まだ千絵に話しかけようとする太陽を引っ張るようにして。
クランとは氏族、転じてゲーマー集団のこと、GはもちろんGAMEの頭文字、すなわち『クラン=G』なる店名は『ゲーム好きゲーマーの集う場所』というような意味なのだろう。
元々は模型屋からはじまったようだが、いまではこの店は、店長の多趣味が影響してか、少年が夢に見るような総合ゲームショップと化している。
元はファミレスだったというそれなりに広い店内には、プラモデルはもちろん、ボドゲと呼ばれるボードゲーム、トレーディングカードすなわちトレカ、TPRG関連のルールブックやフィギュアなどのグッズ、はたまたモデルガンなど、多彩な商品が所狭しと並べられているのだ。
店奥のテーブルではトレカのデュエルを楽しむ常連客や、TRPGのセッションを行うグループもいたりする。
もちろん、いま寝子島で大人気のカプギアこと『携帯戦記カプセルギア』のガチャガチャもあり、店先には対戦コーナーも用意されていた。
いまは夏。すなわち学校は夏休み。当然のように店内には、小遣いを握りしめた少年少女、はたまた少年の心を持った大人が集まっている。ある者たちは蝉の声以上にかまびすしくゲームなり対戦なりを行い、あるいは逆に、閑かに自身の世界に没入している。
あなたは常連客だろうか?
それとも、ふらりとやってきた一見さん?
あるいはひょっとして、全然別の店と勘違いして入ってしまい、長物のモデルガンを手に目を白黒させているごく一般の人だろうか?
同好の士を求めるもよし、レアものを見つけ垂涎するもよし、小学六年の店長代理(彼女は実はゲーム好きではない!)にパリパリにドライな対応をされるもよしだ。
来て見て触ってゲームのお店、忘れられない夏の思い出はここにある……かもしれないし、ないかもしれない。
マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。
シナリオ概要
ゲームショップをのぞいてみよう、遊んでみよう、というお話です。
私はあまりこういう話をしたことがないので、挑戦の意味でも組んでみました。
ファミレスと間違って入っちゃったけどまあなんかくつろぐよ――という楽しみ方も可能です。
色々ためしてみてください。大抵の展開には応じる所存です。
NPCについて
登場に制限はありません。登場してほしいNPCがいれば自由に指定してみてください。
ですが相手あってのことなので、必ず希望のNPCに会えるとは限りませんのでご了承下さい。
ゲームショップにはいそうもないキャラであっても、あなたのアクションに説得力があればきっと出てくることでしょう!
※NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、ライバル同士、恋人、運命の相手など。参考シナリオがある場合はページ数まで案内して頂けると大変助かります)を書いておいていただけないでしょうか。
また、必ずご希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい
三佐倉 千絵(みさくら・ちえ)
店主の娘で小学六年生です。丸い眼鏡をかけていて年の割に背が高く、大人びた容貌をしています。全般的に冷淡な反応ですが、親しい人にはそれなりに笑顔を見せたりします。太陽のように隠れファンが結構いるようです。
父親は東京のゲームショーか何かに出かけてしまったらしく、仕方なく店番をしている模様です。
ゲームはやらせればかなりの腕なのですが、「たいして好きじゃない」という態度を取っています。といっても、説明を求めれば意外なくらい丁寧に教えてくれるでしょう。
ご希望であれば、すでに知り合いという設定は自由に付けていただいて構いません。
それでは、あなたのご参加を楽しみにお待ちしております。
次はリアクションで会いましょう。
桂木京介でした。