夏の思い出、ください……ゲームショップで｜リアクション

夏の思い出、ください……ゲームショップで

　しばらく客もないようなので、それでさあ、と宇佐見望月は丸椅子を見つけて座り、三佐倉千絵相手に熱っぽくニャンダム愛を語っている。
「そう、このゲームも世界観がカッコいいんだよ」

　と切り出して、一旦言葉を切り確認する。
「あ……千絵ちゃんゲームのほうは？」
「コンピューターゲームは基本、やりません」
「そっか」
　よしよし、とうなずいて続けた。ゲームの話なら釈迦に説法とならずにすみそうだ。
「自分が主人公じゃないの、ただのパイロット候補生なのな。んで、マンガのストーリーを追いかけるような感じで、連合軍と帝国軍のどっちかに所属して戦場を生き抜いていくわけなんだ」
「史書に残らぬ名もなき兵士ということですか」
「そういうことになるな。まー、有名キャラと友情育んだり恋愛できるモードもあるみてーなんだけど……俺様はそんなんどーでもいいんだ」
「ぽっと出のキャラがニャリルと恋仲になったりしたら興ざめですからね」
　そうそうそう！　と望月は声を強めた。
「わかってるねえ！　とにかく俺様は帝国軍パッケージヴァージョンのサイコニャホ、これが欲しかったんだ！」
　愛おしそうにプラモデルの箱を撫でるのだった。この中には望月の夢と希望が、未塗装、組み上げ前の状態で詰まっている。
「一度も話題に出ませんでしたが、連合軍パッケージバージョンも一応置いてありますよ」
「それならすでに持っている、抜かりはない！」
　望月はガッツポーズを繰り出すのである。
　さてそろそろ帰って作り始めようか、と立ち上がる。
「ありがとうございました」
　平板な声で千絵が告げた。
　おや――。
　ふと気がついたことがあって、望月はしげしげと千絵を見つめる。
「千絵ちゃん、ところで、ちょっと思ったんだが」
「なんですか」
「もしかして声、声優のあの人に声質、似てない……？　ほら、誰だっけ、名前ど忘れしちゃったんだけど、あー……『ライデンボルト』で言うと、ニャホ開発者の恋人のニャーラの……」
「そうですか？」
　という声を聞いてますます望月は確信を強めた。
「似てる似てる！　千絵ちゃん、悪いけど劇中のセリフのモノマネで『この戦いを、終わらせてきて』って言ってくれない？」
　お断りします、と即レスされるだろうと望月は思った。千絵のキャラならそうくるのが自然だ。
　ところが、しばらく考えて千絵は言ったのである。
「アニメ版と、アニメより先に出たドラマCD版の、どっちがいいですか……？」
　照れているのか、千絵はうっすら頬を染めている。
「千絵ちゃん絶対ライデンボルト好きでしょ！？　本当に本当に！」　