夏の思い出、ください……ゲームショップで｜リアクション

夏の思い出、ください……ゲームショップで

　シーサイドタウンに蝉が鳴く。
　じーわじーわとアブラゼミ。
　鳴く。すごく鳴く。ほうぼうから沸き起こる。満員のサッカースタジアムで観客のあげる怒号のように。
　必要な度合いを超えてうるさいよね、実際――。
　伊賀解理は思う。その『必要な度合い』がどれくらいなのかについてはさておくとして。
　炎天下、立っているだけで蜃気楼になりそうな猛暑の昼過ぎである。
　陽射しと蝉声のすさまじさに黙って耐えているのは苦痛、ゆえに解理はこう提案した。
「どこかで涼みませんか？　貴子さん」
　問いかけた相手が北風貴子なのはある意味お約束、このところ解理はよく貴子と街中でばったり会うのだ。
　といっても本日は、無防備に外出した結果死にそうになり、『貴子さんあぢいよ、あぢいよー！　あぢくて死ぬよー！』といきなりメールして、たまたま外出中だった彼女をなかば強引に呼びつけただけだったりするのだが。（全然『ばったり』じゃない！）
「さすがに参ったわね」
　貴子もいささか閉口気味だ。紺色の日傘をさしているものの、熱対策にはあまり役に立っていない様子。
「でしょー？　だから僕の敬愛する貴子さん、ちょっと近所の涼しいところに行きませんか－？　ファミレスとか……」
「そういう無駄づかいするよりまっすぐ帰ったほうが良くない？」
「うお正論！　じゃなくて、このままじゃ家までもちませんよう～」
　解理は、恋する乙女のような目でぐいぐいと迫る。
　呼び出された時点である程度わかってはいたのだろう。貴子は、
「しょうがないなあ」
　と不承不承これに応じたのだった。
　で、近場のファミレスに向かったのだが、いやしかし、
「……これファミレスじゃないんだけど」
「あれーおっかしーなー、いつの間に潰れたんだろうー」
　そこはファミレスの跡地に居抜きで入ったゲームショップその名も『クラン＝G』なのであった！
　形ばかりはファミレス風の建物だ。平屋で、四角い屋根がついている。
　けれども近づいてよく見れば、違うものだと気がつくだろう。
　窓という窓はゲームやプラモのポスターで覆い尽くされ、立っているノボリも『新デッキ入荷！』『最強の称号を手に入れろ！』といった扇情的なものばかりだ。道路にはみ出かねない勢いでカプセル型玩具自販機（ようするにガチャガチャ）がならび、軒先には子ども用プールくらいのサイズのカプギア闘技場が設けられている。
　ファミレスの形をとどめているだけに違和感ありありだが、それなりに繁盛しているようで、店外の駐輪場には自転車がびっしりと駐まっていた。