夏の思い出、ください……ゲームショップで｜リアクション

夏の思い出、ください……ゲームショップで

　レンガ調の壁紙、コンクリート打ちっ放しの天井。
　シェアで借りているブルックリン・スタイルの部屋だ。
　広さや収納には不満はないけれど、
「ちょっと味気ないよね」
　と吉住志桜里は、卵城秘月の背に声をかけた。広い部屋だから、問いかけはいくらか反響している。
「そう？」
　カウチの端に体育座りしたまま、卵城秘月は首だけのけぞらせて志桜里を観た。秘月は、長い脚を前で交差させている。
「だってさ」
　秘月より少し離れた位置に腰を下ろし、志桜里は部屋の壁を指す。
「二人の娯楽が、壁に掛かった液晶テレビとゲーム機だけでは味気ないもの」
　テレビは新品で綺麗だが、あまりに周辺物がないためか、家電店の展示のように見えてしまうのも事実だ。生活感というものを、引っ越しで前の家に忘れてきたのかもしれない。
　いまテレビはつけていない。だから画面は、まるで50インチの黒い鏡。鏡の向こうの自分に、話しかけるようにして秘月は告げた。
「そうかも」
　ルームシェアである程度過ごして、なんとなく気心が知れてきたのだろうね。
　ぼんやりと秘月は思う。
　それ自体は良いんだけど、お互いのことが分かりすぎると何か別の側面が観たいだとか、新鮮な反応が見たいと思うのは……ちょっとした弊害かな？
　体育座りで組んだままの姿勢で、身をよじって秘月はフェイクレザー地の上を前進した。もう少しわかりやすく書けば、志桜里ににじり寄った。
「その味気なさを解消するための、しおぱん君なりの妙案をうかがいたい」
　しおぱん言うな、とお約束の返しをしてから志桜里は言った。
「せっかくなら、新しい遊びを増やしたいと思うな」
「新しいプレイに挑戦……ねえ」
「そこ、倦怠期の夫婦みたいな表現は控えるように」
　これは失礼、とくすくす笑いつつ、さらにもう少し秘月は志桜里のそばに寄っている。この距離ならば、もし何かの拍子で志桜里に対しガバっといくことになれば、総合格闘技でいうところのグラウンドポジションでの攻防へともつれこむことになるだろう。
「で、どう？　ボードゲームなんか買ってみるとか」
「まあ……」
　腕を解いて脚を伸ばし、秘月はうんと伸びと深呼吸をする。いつの間にか、どうやって志桜里からグラウンドポジションを取るかということを考え始めていたので、脳に酸素を入れたかった。
「今まで遊んでなかったジャンルのゲームで遊ぶのも、また面白い試みであるかな」
　そんな秘月の心中などまるで気がつくことなく、
「そろそろ涼しくなってきたし」
　と志桜里は立ち上がった。