夏の思い出、ください……ゲームショップで｜リアクション

夏の思い出、ください……ゲームショップで

　輸入物のメタルフィギュアがずらりとならぶコーナーだ。
　両翼をひろげたドラゴン、盾を構える甲冑の騎士、大斧をふりかぶった骸骨兵士……無骨だがきめ細かく、ファンタジックで独自の美意識を感じさせる展示品がいくつも、黒い天鵞絨（ビロード）布の上に鎮座している。
　野菜原ユウは鬼河内萌を見て、
「お、めずらしーとこで会うな」
　と、さして驚きもせず片手をあげた。
「初めて来たんだ☆」
　ユウくんに会うために、という一言は伏せて萌は笑みを見せた。
「メタルフィギュアって言うんだよね、こういうの。格好いいね♪」
「お？　わかるか？」
　ユウはその言葉が嬉しかったようで、いくつか展示品を示して造形の見事さや存在感、コレクションの楽しさなどを饒舌に語った。もともとユウはよくしゃべるほうだが、こと趣味になると熱がこもるようだ。
　彼の言っている言葉の半分くらいはわからなかったし、正直メタルフィギュアの良さもいまひとつ理解できないものの、萌はうなずいてさりげなくこう訊いてみる。
「それで、いまユウくんが注文してるフィギュアって？」
　ビキニアーマーを着たグラマラス美女戦士のフィギュアじゃありませんように――心のなかでそう祈っている。ビキニアーマーだとか美女だとかはいいのだ。問題は、巨乳というその一点だ。
「この巨大オーガ戦士の武器違いバージョン！　金属音が聞こえてきそうなヘビーアーマーが無茶苦茶カッケーよな。そのうえぶっとい鎖分銅装備だぜ！　しかも限定カラーってんだからほしくもなるじゃん？」
　オーガというのは鬼みたいな怪物らしい。美形とは言いがたい。むしろその対極だ。ただ禍々しいほどの存在感があるのは事実だった。
　萌は心のなかで、ふかぶかと安堵のため息をついた。
　もしよかったらこの間のほおずきのお礼に買ってあげるよ――と言いかけて萌は言葉を呑み込んだ。
　限定バージョンとやらでない普通のオーガ戦士であっても息を呑むような価格であったのである。
　これが特別版だとしたら――！
　血の涙を流すしかない。
　せ、せめてリーズナブルなモノがあればっ！！
　と見回すが、小さい品はユウは持っているか興味がないらしい。
　げに恐るべし、メタルフィギュア道というやつか……。