城山を陥落させた朝野 未沙は、次なるターゲットを夕鈴 翼に定めた。
　小学生なのに、けしからんサイズの胸をおもちで、しかもノーブラである！
　襲わずにいられようか！　否！　あのデンジャラスバディを無視するなんて、触手ゾンビの沽券に関わる！

「なんか触手とか迫ってきてるんですけど、聞いてませんよ！」
　夕鈴は、ゾンビなどのホラー系は苦手だった。
　作り物と分かっていてもだ。
　作り物……？
（あの触手、すっごく本物っぽくぬめって動いてますけど、ほんとに作り物なんですかあ！？）
　夕鈴は青ざめ、本気で走る。
　まさに、脱兎のごとく！
　直進だけじゃ掴まりそうなので、右や左にステップしたり曲がったりしていたが、とうとう足をもつれさせ転んでしまった。
「あっ！」
「むふふ～～もう逃げられないよ～～」
　触手をうねらせ迫ってくる朝野。
　追い詰められた夕鈴は、目に涙を浮かべて後ずさりする。
　本当は大泣きしたいくらい怖かった。
　けれど、怖すぎて咽喉が詰まって声が出ない。
　ふるふると小刻みに首を横に振り、もう一歩、後ろに下がる。
　ぽふっ。
　背中に柔らかい感触があり、夕鈴は振り返った。
「冬華お姉さん！？」
「夕鈴さん！」
　そこにいたのはところどころ破けたタンクトップにミニスカート姿の北条 冬華。
　その体ときたらムッチムチ、ピッチピチだが、本人はあまり意識していないようだ。
　夕鈴同様ゾンビに追われ、絶体絶命と後ずさりして夕鈴と背中と背中がぶつかった次第である。
　涙目で怯えた冬華の向こうにいるのは、ゾンビメイクであーうーと緩慢に追ってくる御剣 刀！
　寝子島で指折りの加速の剣士といえど、一皮剥けば、ごくフツウの思春期男子。
　緩慢なゾンビの動きもけっこうノリノリだ！
（冷静に考えると周りに女性多すぎじゃないですかね？　そして、男少なすぎじゃね？　何というか興奮するね！　テンション上がっちゃうよ！！　やらかしたら土下座して謝りましょう！）
　ヤる気満々である！
（しかし、演技だから平気だけど、気になる女の子をこうしたらとか考えたら結構テンション上がるな。
俺、こういう願望あったのか～……ヤバいが試してみたい。ちょっと今度、その……うむ）
　どす黒いゾンビメイクで分かりにくいが、ぽっと頬を赤らめる御剣。
　思春期男子らしくご妄想中でございます。
　一応ゾンビ演技を意識してゆっくり動く御剣に対し、朝野のほうは容赦がない。
　御剣が妄想している隙に触手を伸ばして、夕鈴と北条のダブルダイナマイトおっぱいにしゃぶりついた！
　ウネウネヌルヌルぬるりんこ。
「いやあ～！」
「そこはだめえ～っ！」
「ヌッフッフ。おいしい女体はぜーんぶあたしのもの！」
　鼻息荒く触手を動かす朝野！
　獲物を横取りされた御剣は思わず叫ぶ。
「朝野ー！　お前そう言う所は本当にお前だよな！　何か安心するわ！」
「でっしょー？」
　そういって朝野は、夕鈴の下半身に触手を伸ばす！
「イヤー！！！！！　お兄さん……助けて……！」
　恐怖心により心理的リミッターが働いたのだろうか。
　夕鈴はふらり、気を失って倒れた。
　その下半身から、器用な触手によって抜き取られる、水色と白のストライプの肌触りのいいパンティ。
（怖がってる演技とか嗜虐心をそそられて興奮するよね！）
　夕鈴の失神はハッキリ言って演技じゃないが、理性を失った朝野は留まるところを知らない。
　じっくりたっぷり舐る様にパンティを脱がせると、クンカクンカ匂いを嗅いだ。
「いーいにおい！」
　パンティを舐め、おもむろにしゃぶる。
「あは……もぐもぐ。おいしー（はぁと）」
　――お兄さん……助けて……！
　気を失った夕鈴の最後の声が御剣の脳内でリフレインする。
（これがアイツとかアイツだったらそのパンツは俺のだ！　とか言ってそう、そこはパンツじゃなくて中身に執着しないとダメな気がする……）
　じゃなくて！！
　はっと我に返る御剣。
　お兄さんとして考えることはそれじゃなーい！
「さすがにやりすぎー！　物事には限度があります、やりすぎると殺られます！　だから落ち着け！」
　そう、こっち！
　御剣、ゾンビ演技を忘れ駆けると、朝野本体の顎にアイアンクロー！
　触手攻撃力は高いが、人間の本体のほうの防御力はゴミな朝野、気持ちよくポーンと吹っ飛ぶ！
　残った北条は、倒れた夕鈴に駆け寄る。
「ああ、なんということでしょう。もう、夕鈴さんは、だめですね。そして、私も……」
　北条は、自分に迫ってくる御剣を見上げ、それから観念したように目を閉じる。
（どうせ私はモブ。完全にモブとして無残に犠牲になりさっさと退場するのが吉と見ました。おそらくそれが一番傷が浅くて済むはず……！）
　楽観的希望かもしれない。けれど、相手が御剣なら。
　少なくとも朝野の触手よりは、優しくしてくれるはず……！
　瞳を開ける。
　涙目で怯えた表情で、御剣に引導を渡してくれるよう懇願する。
「いいんだな」
　御剣は北条の傍に跪くと、彼女のミニスカートを捲り上げた。
　むっちりとしたヒップを包むのは、白いレースの刺繍入りパンティ。
（パンツだけでいいのか？　ブラも取った方がいいのか……？）
　焦らすような手つきに、もじ、と北条は身悶えする。
（ちなみに中身は生えて無くて、つるつるです。何が、とは言いませんが）
　後は野となれ山となれ。北条がノーパンを覚悟したそのとき！

　ちゃっちゃららちゃちゃちゃーん♪
　ちゃっちゃららちゃちゃちゃーん♪

　チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」が響き渡る！

「待て、そこまでだ！！！」

　高いところからゾンビたちの所業を咎める声。
「あっ、お前は！！！！」
　御剣は知っていた！　あれは――、