富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【富士山登ろう！（７）】

「とおーちゃくー！」
「やったぜ！」
　鬼河内萌と野菜原ユウ、八合目の山小屋へ到着！
　行程としてはこれで半分ですけれど、今日はひとまずここまで。晩ごはんをいただいてから早めに休み、明日は深夜の出発です。
　まだ外は日が落ち切ってはいないものの、山小屋には早くもスパイシーな香りが充満し、山登りでへとへとなふたりのお腹をこれでもかっと刺激してきます。
　そう。山小屋カレーです！
「ユウくん、早く食べよう！　すぐ食べよう！」
「おう！　って、引っ張るなって！」
　混み合う山小屋のテーブルに腰かけると、いくらも待たないうちにカレーが運ばれてきます。カレーのほかにおかずのトレイもついていて、ちょっとした魚の切り身やらソーセージやら、福神漬けもたっぷり乗っていて、なかなかボリューミーです。
「いただきまーす！」
　萌は待ちきれないといった様子でさっそく、夢にまで見た山小屋カレーを一口。ぱくり！
「「うんま～～～♪」」
　ユウと揃って、ほくほく顔で濃厚カレーを堪能するのでした。

　山小屋ではひと足早く到着した仲間たちも、やっぱりカレーをぱくぱくといただいています。
「山で食べるカレーは、ひと味違いますねー。頑張って登ったぶん、美味しく感じますね。ふっふ♪」
　スプーンをぱくりと口へ運んで、薄野五月は思わずにーんまり。いつものふっふ！　が出ると、周りも思わず和みます。
「薄野さん、いい食べっぷりねえ……」
「でも森篠先輩、本当に美味しいよ、これ。その気持ち分かるかも」
　感心しきりの森篠琳子に、恵御納夏朝もぱくぱくぱく。
　山小屋カレー。噂には聞いていたものの、想像以上の絶品カレー！　味そのものはもちろん、この心地良い疲労感、窓の外に見える絶景こそが最高の隠し味であることは、言うまでもないことでしょう。
『ふじさん、きてよかったね』
　ふと食べる手を止めて、小山内海がスケッチブックにさらさらり。どうしても、そうして言葉にしたかったのでしょう。
　後輩たちの穏やかな笑みを眺めて、琳子は思います。
（来て、良かったわね）
　良い思い出もありながら、辛い思い出も再び浮かび上がらせてしまう、ほかでもない富士山です。もともと、林間学校に参加するつもりはありませんでした。
　けれどバイト先の上司が、「学生生活最後の林間学校なんだから」と勧めてくれたのは、もしかしたら……琳子にとって、ひとつの転機であったのかもしれません。そんな気すらする、山小屋でのひと時でした。
「森篠先輩、カレーはなんとお代わり自由だそうですよー。取ってきましょうか？」
「……お願いするわ」
　ふっふと笑う五月に、思わずそう答えてしまった琳子でありました。

　佐藤英二の心配は尽きません。
　放っておくとずんずん先へ進んでしまいそうになる野々ののこをなんとかなだめて抑えつつ、山小屋へとたどりついたは良いものの。
「野々さん……そんなに食べて大丈夫？」
「だーって、お腹すいちゃったんだもん♪」
　ドトウのイキオイでカレーをかっこんでいくののこに、あとでお腹が痛くなってしまわないかなぁ……と英二は気になってしまいます。ののこはそんなに大食いではないのです。
　でも、これだけの高度を足だけで登ってきたというのに、山小屋には活気と熱気が満ち満ちています。
　ののこだけではないのです。英二にも確かに、なんとなーく、熱に浮かされているような感覚はありました。
　登山には、不思議な魅力があるようです。運動も勉強も平均的、ごく平凡な男子高校生たる英二だって、奮い立とうというものです。
「明日もいっぱい歩かなきゃだからさー、英二くんもいっぱい食べといたほうがいいよー」
「うん。なんか、そんな気がしてきたよ」
　明日のご来光をばっちり目にするため、パワーをチャージしておかなければ！　英二はののこといっしょに、カレーのおかわりをぺろりと平らげたのでした。