富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【富士山登ろう！（６）】

「カレー♪　カレー♪　山小屋でカレー♪」
　人はなぜ山に登るのか？
　それはね、山小屋でカレーを食べるためだよ！！
　もちろん冗談ではありません。鬼河内萌にとっては、それこそがこの富士登山に参加した最大の理由のひとつなのですから。
「ノリノリだなぁ、鬼河内」
「そりゃあそうだよ、ユウくん！！」
　いつもの軽ーい調子でそう言った野菜原ユウへ、萌はずばっ！　と振り向き、熱く説くのです。
「山で食べるカレーは特別なんだよ！　薄い空気、きつい坂を必死に登ってようやくたどりついた山小屋で、つんと鼻をくすぐるスパイスの香り。疲れ切ってペコペコなお腹に染みわたる、濃厚なカレー……ただのカレーじゃない、山でしか食べられないスペシャルな山小屋カレーなんだよそうなんだよ！」
「お、おう。そうか。なんだろう……俺、すげーカレー食いたくなってきたよ！」
　うむ！　ユウのお返事には、萌もにっかり微笑み満足げ。
　七合目を出発して数十分。確かに標高が高くなったことで空気は薄まり、また気温も少し下がってきたようです。今日の行程はそろそろラストスパートとはいえ、やはり疲労はピークに達しようかというところ。
　それを乗り越えたところで、ようやくにして食べることのできる山小屋カレーは、そりゃあもう！　どうしたって美味しいに決まっています。
「ところでユウくん、それ、なに聞いてるの？」
「おう、鬼河内も聞くか？　山登りにゃピッタリのナンバーだぜ、テンション上げてくぜー！」
　イヤホンひとつずつ、ユウお気に入りの曲をＢＧＭに登れば、なんだかこれって恋人同士っぽくない！？　なんて、ご機嫌な萌でありました。

　少しずつ、空にオレンジ色が混ざり始めてきた頃。
（あ……見えた）
　むき出しの岩に足をかけ、見上げた小山内海の瞳に、小さく『八合目』の文字が飛び込んできました。七合目から八合目にかけては山小屋がいくつかありましたけれど、まぎれもなく、今日の目的地となる山小屋です。
（あと少し……）
「頑張ってるね。大丈夫かい？」
　声をかけた黒崎俊介先生の言葉に、海は思いのほか足が重く感じることに、今さらながら気づきました。スローペース、着実な一歩を心掛けて登って来ましたけれど、自分で思っている以上に疲労は溜まっているようです。
　けれど、それ以上に、海は内側から湧き上がる力をも感じます。
　地上からは遥か彼方の高みに思えた山頂まで、半分のところまで近づきました。今日は早くに休んで、明日は深夜から再びの山登り……それがちっとも嫌ではありません。むしろ、楽しみなくらいなのです。
　大丈夫です、とこくりうなずくと、黒崎先生もにっこり笑って、
「あともう少し、頑張ろう。あの山小屋にたどり着けば、美味しいカレーが待っているよ」
　いつも涼しげな顔の先生も、額に汗して登っています。なんだかそれが不思議に思えて、海はくすりと笑いました。
　さて、もう少し。あと少し！
　海はきゅっと唇を凛々しく結ぶと、力強く足を踏み出します。