富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【それぞれの星空（１）】

　樹々に囲まれて迎えた夜は、閑静な住宅街の静けさに比べれば、驚くほどに賑やかです。
　風の音。虫の音。遠くには野生動物の鳴き声も聞こえてきます。
　そして、みんなのささやき声も……ほら。

「残念、それババだぜ～」
「ええ～？」
　就寝時間を過ぎたテントの中では、声をひそめつつも、お菓子を賭けてのトランプ対決など行われておりました。
　ニヤリと笑った野菜原ユウと、手札にやってきたジョーカーを見下ろし眉を下げた佐藤英二。それに綴柚枝と音海なぎさも同じテントに振り分けられました。
「へへ～ん、これで上がり～！」
「なんだよー、野菜原のひとり勝ちじゃん！」
　柚枝がぶわー！　とカードを撒くと、賭けたお菓子はユウのところへ。なぎさもいくつか取られてしまいましたけれど、こんなのもまた楽しいものです。彼はくすりと笑いました。
「ふふふ。さすがユウくんだね～！　よっ、遊びの天才！」
「なんだよ～、あんまり褒めんなよ～……って、ん？」
　ちょこん。いつの間にやら、ユウの隣で勝負の行方を見守っていたのは、鬼河内萌。ここ、男子のテントですよ！
「何してんだ鬼河内ー！？」
「ふわぁ。みんな、そろそろ寝る時間だよ～？　ボクも眠くなっちゃった。おやすみ～」
「おおおーい！！」
　富士山五合目での雑魚寝の感覚をいまだ引っ張っているのか、ユウの膝の上でぽてん、と寝てしまう萌。
「仲いいなぁ」
「僕たち、ちょっと出てようか……？」
「そうだな、お邪魔みたいだし」
「ちょ、待てー！　どうすんだよこれ！？」
　なぎさと英二、柚枝は笑いながら、テントを出ました。ふたりきりにしてあげよう、なんて配慮だったのかもしれませんけれど、あるいはユウの慌てる顔が面白かったからかもしれません。
　と。そこで彼らは、気づきました。
「うわ……！　すっげー、きれー！」
　思わずほうと息を漏らした柚枝につられて、空を見上げます。
「すごい、星空……」
　富士山頂で見たあのきらめきも、もちろん美しかったけれど。
　今この瞬間の、降り落ちるような星たちもまた、胸打つ輝きをたたえています。
「ほんと、すげー……一個くらい落ちてこねーかなー？　もちろん隕石的な意味じゃなくて、流れ星」
「ふふ……落ちてくるかもね。本当に」
　柚枝はたまらず、くるりくるりと軽やかに回ります。じんじんと全身を苛む筋肉痛も、どこかに置き忘れてきてしまったかのようです。
　なぎさは星の光を浴びながら、あらためて思います。いかに人間の生活が、自然からかけ離れたものであるのかということを。
　登山での苦労や、こうして自然に囲まれた環境でのさまざまな体験が、そんな当たり前のことを思い出させてくれたのでしょう。
　なぎさはそれきり物言わず、ただ祈りに似た心持ちを胸に抱き。柚枝は、一筋の尾を引きながら流れた星へ、自身の大切な創作活動への願いを小さく口にしました。
　英二は言葉を呑み、けれど良い気分で、
「なんだか今夜は、良く眠れそうだよ」
　つぶやいたそんな言葉には、なぎさも柚枝もこくり、うなずいたのでした。

　夕食の後に、持ってきた花火で大いに楽しんだ初瀬川理緒と、佐和崎紗月。
　今はあの喧噪が、まるでウソのよう。
「……すごいね」
「……うん」
　やわらかな木のベンチに並んで腰かけ、紗月の頭は理緒の肩の上。右手と左手は優しく絡み合い、頭上には数え切れないほどの星の坩堝。
　寄り添い、ただそれを見つめます。
　来年もふたり、こんなふうに過ごせたら。口には出さずとも、思いはきっと、ひとつ。