富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【それぞれの星空（２）】

「やー。これは綺麗ですなー」
　テントから這い出して、薄野五月は感嘆の息を漏らしました。
　この星々には、誰もが魅了されずにはいられません。五月もまた時を忘れ、吸い込まれそうな空を見上げます。
　ついと横切る流れ星へ願ったのも、なんとも五月らしいお願いです。
「明日も良い日でありますように～」
　良い気分でテントに戻ると、おや。五月はふふりと微笑みます。
　シュラフにくるまった綾辻綾花が、すやすや寝息を立てていました。近くに早川珪先生が寝ているテントがあるからでしょうか？　すっかり安心してしまったようです。
　……というのはもちろん、五月の知る由もないことですけれど。
　いつになく油断した寝顔を見せる綾花を微笑ましく眺めて、その夢が楽しいものでありますようにと祈る、五月でありました。

　雄大すぎる富士と星空の組み合わせを前にしても、北里雅樹と椎井莉鳥の会話は、噛み合わないまま。
「椎井。眠れないのか？」
「もう寝てたんじゃないの」
「星が綺麗だからな」
　繋がっているような。噛み合っていないような。
　示し合わせたわけでもなく、並んでベンチに腰かけて、
「空、すげーな」
「あの星、何座だったかしら。わかる？」
「さー。キラキラ星じゃダメか？」
「……聞く相手を間違えたわ」
　もうすぐです。このつらつらと中身のない会話が交わされることも、あと少しで無くなります。来年の今ごろはもう、こんなふうに並んで話すこともないでしょう。
　そのことに、おたがい、心はもう揺れません。
　……揺れることはない、はず。

　こつこつと軽い足音に気づき、八神修は振り返ります。彼女だと、その予感はありました。
「修くん、また勉強してるの？」
「登山のあとは、疲れて寝てしまったからね。遅れを取り戻さないと」
　いかにも修らしい答えに、あおいもまたいつものことだと納得したのか、彼女はただ微笑みました。
「そうそう。ちょっとお夜食のつもりで、おにぎりと……ほら。お茶を持ってきたの。いる？」
「ありがたい」
　おにぎりは、おかかとしゃけ。半分こずつ、水筒の冷たいお茶といっしょにいただきます。
　ひとまず勉強の手は止めて、ほう、とひと息。おにぎりをぱくり。
「……！！！？」
「ん？　どうしたの、修くん？」
「なん、でも……ないよ！」
　にかっ！　この夜、修の笑顔が絶えることはありませんでした。愛の力は偉大なのです。

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