富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【それぞれの星空（３）】

　響タルト、マーガレット・ライカー。無事原稿を完成させ、ネコミケへの出撃も準備万端、臨戦態勢！
　そんなふたりが、星が綺麗なこの夜になにをしているのかと言いますと。
「……聞こえないね？」
「おかしいですね……」
　テントの隅っこにビッタリくっついて、なにやら耳を澄ませております。
「基本的に男女別なこのテントのなかでは、男子たちは必然的にボーイズトークに花を咲かせるものではないのですか」
「狭いテントでくっつきあって、しゃべることと言ったらコイバナ！　なはずだったのに～」
　謎の先入観で、隣のテントに聞き耳を立てるふたり。
　と、
『……せ、先パイ……おれ、もう我慢できないッス……！』
「！？　タルト先輩、これは！？」
「来たよーマガレちゃん、これは来たよー！」
　ちらりと漏れ聞こえてくる、どこかインビな響き。
『いいんだぜ。もう出しちまえよ』
『でも先輩、おれ……』
『無理すんなよ、ほら……』
　どきどきどき、イヤがおうにも高まる期待。どうなっちゃうの？　ナニが出ちゃうの？　どうなるの先輩！？
『も……限界ッス……』
　ぶばばーーー！！
『か、辛ェーーー！！』
『ばっおま、出してもいいけど噴き出すなよー！』
『汚ったねー、わはははは！』
『ひでーッスよ先輩、こんな辛いモン食わせやがってー！！』
「「……………………」」
　しばし固まるタルトとマーガレット。
「……アリですわね」
「アリだね」
　アリでした！

　鳥も飛ばない宵闇に。
　御巫時子は上着を羽織り、テントを抜け出しました。
（噂どおり……満天の星空ですね……）
　小脇に抱えた本を開いてページを繰り、空と見比べます。今日の夜に、星の位置を確かめようと持ってきた、星座の本でした。
（あれは、わし座のアルタイルで……あちらの星が……）
「おや。眠れないんですか、御巫さん」
　かけられた声に、どきり。
　はっとして振り返ると、そこには確かめるまでもなく、五十嵐尚輝先生が佇んでおりました。
「星が……綺麗ですから……」
「ああ、なるほど。確かに」
「尚輝先生は……？」
「僕は、見回りです」
　そして、なんだかそれが自然な流れであるかのように、彼が隣へ立ったので、時子は少し驚きました。
「それは……星座の本ですか」
「はい。けっこう面白いですよ……？」
　あの明るい星は、アークトゥルス。うしかい座の星ですね。あっちの白くて明るい星は、ベガ。いわゆる、織姫星です。向こうが彦星で、わし座のアルタイル……。
「珍しいですね」
「え？」
「そんなに夢中な御巫さんは」
　ぽう、と頬が熱くなりました。なんだかついつい、のめり込んでしまって。それがちょっぴり、恥ずかしくて。
　けれど、先生は言いました。
「いいことだと思いますよ。もっといろんな星座を教えてもらえますか？」
「は、はい……！」
　本の星座を数え終わるまで、ふたりきりのひと時は続きました。

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