富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【キャンプだよ、全員集合ー！（４）】

　の～んびり。ゆ～ったり。
「やー。癒されますねえ」
　薄野五月は釣り竿を支えつつ、揺れる湖面やそこへ映り込む富士山など眺めて、に～んまり。ふっふ！
　本栖湖ではこうして、釣りを楽しむこともできます。メインとなるヒメマス釣りはちょっぴり時期外れですけれど、ニジマスや鮎、ワカサギ、オイカワというお魚に、ブラックバスやトラウト。なんとウナギまでも釣れてしまうというのですから、そりゃもう十分というものです。
　んんん、と伸びをすると、背中のどこかがぽきりと鳴りました。まだまだ富士登山の疲れも残っていますから、こうして釣りなどしながら風景を楽しむのんびりまったりとした時間も、なかなか良いものです。
「わ、わ！　釣れたよー！」
　きゃっきゃと可愛らしい声は、お隣で糸を垂らしていた音海なぎさです。
「おー、やりましたねー！　これは、ニジマスでしょうか？」
「うん、しかもけっこう大きいよ！　晩ごはんの時にバーベキューで食べようね」
「う～ん、美味しそうですなー♪」
　もう片方の反対側では、御巫時子が同じく竿を構えております。
「……！　私も、来ました……！」
　糸がピンと張り、ぐぐぐとしなる竿。あんまり引きが大きいので、
「私もお手伝いいたしますよー！」
「お、お願いします……！」
　五月も手伝って、ぐぐぐぐぐ。ぐいっ！
　ぱしゃんと水から飛び出してきたのは、これまたいいカタの鮎でした。
「ありがとうございました……釣れました」
「いえいえー、やりましたねー」
「はい……できたら、ヨタカさんと雷鶏さんにも、おすそ分けしたいですね……」
　とはいえそうもいきませんもので、この鮎もお夕飯の食材とすることにします。
「薄野くん、薄野くん！　引いてる引いてる！」
「おおっ？」
　なぎさの声に振り向くと、立てかけておいた五月の竿がくいくいくい。
「どれどれ、どんなお魚さんでしょうか？　ふっふ♪」
　慌てずゆっくり、じっくりと。五月はこのひと時を楽しみます。

「楽しいの？　それ」
「タンパク質確保のための釣りはお手のものってね。猫鳴館住まいだからな」
「へえ、そう。今日も日差しが強いわね」
　相も変わらず、椎井莉鳥と北里雅樹の会話には、リズムというものがありません。繋がっているようで繋がっていなかったり。噛み合わないようで噛み合っていたり。
　そんなのが、今のふたりの距離感です。
「ご来光、どうだった？」
「素晴らしかったわ。おかげで今朝の気分は今ひとつね」
「俺のせいかよ。まあ見てろって、今美味いやつ釣ってやるから」
　山頂で見たあの光景の余韻が、元カレとの合流で台無しに……などと、莉鳥は言いますけれど。そもそも釣りをしている雅樹のもとへふらりとやってきたのは彼女です。
　そんなつもりもなかったはずなのに。
　雅樹だって、不愛想な元カノの相手などそこそこに、釣りへ没頭していても良さそうなものです。
　けれど気が付くとふたり、こうして顔を合わせては、なんとも実のない会話を繰り返すのです。
「……釣れたら持ってきて。食事の準備をしているから」
「おう」
　ようやくがっちりと会話の歯車が噛み合ったのは、最後のこのひと言だけでした。
　けれどなんだか、これがしっくりくるのです。