富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【キャンプだよ、全員集合ー！（３）】

　初瀬川理緒と佐和崎紗月の姿は、ゆらゆら揺れるボートの上にありました。
「水、つめた～い！」
「うん。気持ちいいね」
　手漕ぎのローボートで、ゆっくりゆったり。ペダル式のボートもありましたけれど、やっぱりこちらのほうがムードたっぷりで、素敵なのです。
　清涼で清浄な水に手を触れたなら、心がすっかり洗われてしまうかのよう。ことに理緒は、失敗すればグラビアアイドルを止めさせられてしまうという、過酷な受験チャレンジの真っ最中です。日々の勉強で、疲れもたまっていることでしょう。
　今朝なども、理緒は盛大に寝坊をかましてしまい、紗月に起こされ慌ててホテルの部屋を飛び出してきました。前日の登山から蓄積した疲労はあれど、やっぱりお疲れだったのです。
「そういうのが、全部。ぱーっ！　って、無くなっちゃうみたい」
「ふふ……良かった」
　それも、雄大な富士山を望む湖というこんなにも素晴らしいロケーションの中にいたならば、そしてすぐそばには大好きな彼女がいたならば。
　理緒の苦悩は全て、吹き飛んでしまいました。
「ああ、気持ちいいなぁ。ふわ……」
「理緒ちゃん、眠い？」
「うん。ちょっと」
　とはいえ本日もなかなかに朝は早かったのと、なによりこの陽気です。眠気にも襲われてしまおうというものです。
「じゃあ、お昼寝しよっか？」
　紗月の提案の、なんと魅力的なこと！
　ふたりはぷかぷかボートの上で、しばしのお昼寝タイム。ゆらゆらり。

　水面から湖水の中を泳ぐお魚たちの姿が見えて、綾辻綾花は瞳をきらり、輝かせます。
「見てください、珪先生！　お魚がいますよ」
「あんなに深いところまで見えるんだね」
　早川珪先生を誘っての、初カヤック体験。前後にふたり乗りのカヤックで、交互によっ、ほっ、とパドルを漕ぎます。
　柄の両側に水かきのある大きなパドルを使い、上半身の筋肉をまんべんなく使って漕ぐのがカヤック……と、事前の講習で教えられましたけれど、やってみるとこれがなかなか大変！　とはいえ幸いふたりとも筋が良く、並の小さい湖の上ということもあって、すぐに慣れることができました。
「でも、明日は筋肉痛かなこれは。ははは」
「そうですね。でも、楽しいです」
「うん。気持ちがいいね」
　（先生といっしょで）楽しいです、とは口には出せないけれど、幸せいっぱいな綾花でした。
「っと。このへんでしょうか」
「どれどれ。ああ、このアングルだね」
　そんなふうにカヤックを漕ぎ、やってきたのは富士山とは反対側の岸の付近です。
　千円札を裏返すと描かれている富士山と、本栖湖に映り込む逆さ富士。こここそがまさしく、その風景を映し出した場所なのです。
「……素敵ですね」
　綾花は、珪先生の掲げる千円札と、目の前にそびえる富士の威容をケータイのレンズにおさめ、ぱしゃり。写真を撮ってにっこり、ご満悦でありました。