富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【観光しようぜ！（５）】

　窓の外から差し込む光も、徐々にオレンジがかってきた頃。
「マガレちゃん、今どのくらい！？　次いける！？」
「このページはこれで終わりです。いけます！」
　原作・マーガレット・ライカー。作画・響タルト。いわゆるひとつのウスイホンの原稿を、ホテルにカンヅメでうおおおおっと描きまくる女子高生二名であります。
　原作のほうはすでに仕上がっているので、マーガレットの役どころはトーン貼りくらいなもの。主にうおおおおおっと頑張っているのは、タルトだったりしますけれど。
「さすがに手描きはそろそろ辛いかな……？　いずれはデジタル化も考えたいよね」
「そうですね。今はマンガ用の便利なツールだっていくつもありますし」
　と、その時。
　こんこん！　扉がノックされて、ふたりはびくりと跳ねました。
「…………」
「…………」
　ふたりは今富士周辺を絶賛観光中であるはずでして、ホテルの誰もいないはずの部屋から話し声など聞こえてきては、怪しまれもしようというものです。
　しばらく声をひそめていたら、ノックした誰かは勘違いだとでも思ったのか、やがて足音は遠ざかっていきました。
「ふ～……危なかった。今更だけどマガレちゃん、大丈夫なのかなこれ？」
「大丈夫です。殺人事件でも発生して、偶然名探偵の孫やら少年探偵やらが現場に居合わせない限り、私たちのアリバイはカンペキです」
　などとマーガレットはスゴイ自信ですけれど、一抹の不安はぬぐい切れないタルトでした。
　とはいえ、そんなことを気にしてばかりもいられません。なにしろ、夏のネコミケ開催は間近に迫っているのですから！
「はいっ、このページ終わり！　飛ばしていくよ～マガレちゃん！」
「ええ、私たちのネコミケのために……！」

「お昼に食べたお蕎麦……美味しかったですね……」
「そうですね。コシがあって、のど越しも良くて」
　そんな話をしながら、御巫時子と五十嵐尚輝は、忍野八海のひとつに数えられる菖蒲池へとやってきました。
　ほかの生徒たちは早々にあちらこちらへ散ってしまったので、今はふたりきりです。
（……ふたりきり……）
「？　どうかしましたか、御巫さん」
「い、いえ……なんでも」
　あらためて意識すると、ぽうと頬が熱くなるのを感じて、時子はふいと視線を流します。
　わらぶき屋根の風情たっぷりな家屋が立ち並ぶ中、湖のほとりに立ち、涼しげな湖面を覗き込みます。鯉がぷかりと顔を出し、口をぱくぱく。胸がほっこりとしました。
「へえ。この池の菖蒲を身体に巻くと、病気が治る。という言い伝えがあるそうですよ」
　尚輝先生が、先ほどバスの駅に置いてあった観光ガイドを見ながら、言いました。
「昔々。菖蒲池のほとりに住む若夫婦の旦那が、肺病にかかってしまいました。妻は献身的に看病を続けたものの、夫の病気は重くなるばかり。やがて妻はもはや神仏にすがるほか道はなしと思い、菖蒲池の水を浴びて身を清め、一心不乱に祈願しました。すると、ちょうど三十七日目のこと。突然、『池の菖蒲を夫の身に巻きなさい。さすれば、夫を苦しめている病魔は必ず退散することでしょう』という神のお告げが聞こえてきました。妻がそのとおりにすると、夫の病気はたちどころに良くなったということです」
「素敵な、お話ですね……」
　ついつい。時子は、考えてしまいます。
　頭の中に、ぽわぽわぽわわん。
（……ふうふ……）
「？　どうかしましたか、御巫さん」
「い、いえ……！」
　ますます頬が火照ってしまいました。このどきどきには、慣れることがないようです。

　そんなこんなで自由時間も過ぎ去り、観光班の面々は合流すると、ホテルへ向かいます。
　富士登山のみんなは、そろそろ山小屋へ到着したでしょうか？
　この先もきっと、楽しい時間が待っていることでしょう！