富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【観光しようぜ！（２）】

　特にお目当てがあるわけではないものの。
「ふーん……」　
　北里雅樹はなんとはなしに、富士山のお土産をつらつらと眺めています。
「なんだこりゃ、誰がこんなの買うんだ？」
　キーホルダーだろうとペナントだろうと、美味しそうなお菓子だろうと、はっきり言って興味はありません。ただ漫然と、目的もなくぶらぶらとしているだけ。
　ゆるゆるとスマホを取り出し、周辺観光地など検索してみます。
「富士急ハイランド……絶叫系はパスだな。高所恐怖症にはキツい。浅間神社……ひとりじゃ退屈しそうだ。自然公園……うーん。暑いからなぁ」
　首をかしげながらも、スマホをぺもぺも。
「富士五湖……まあ涼しそうでいいかもな」
　それだけの理由で、湖へ向かいます。
　やってきたのは河口湖。
　ハーブ館に美術館をそぞろ歩き、近くの食堂で暑い中ほうとうなど食べ、ふらりとやってきた公園のベンチへよっこらせと腰かけたその時に……雅樹はふと、思うのです。
（あいつといっしょだったら……）
　元カノ。椎井莉鳥。
　彼女が隣にいたなら、きっといつものようにあの絶妙に噛み合わない、ある意味では小気味のよい会話のキャッチボールを楽しむこともできたでしょう。
（……なんでこうやって、今さら。俺は）
　もう、終わったはずなのに。
　ゆるやかな風と陽気が誘う睡魔にとらわれ、こくり、こくりと船を漕ぎ出した雅樹は、彼女の夢を見ました。

「……はぐれたね」
「はぐれちゃいましたね」
　もちろん、迷子も大歓迎ですけれど。大好きな人といっしょなら！
　というわけで、綾辻綾花は早川珪先生とそのままなし崩しにお土産探しモードに突入。富士周辺を散策しておりました。まあ集合場所は分かっていますし、先生がいっしょなら安心です。
　綾花のことですから、探すモノにはちょっぴり偏りがあったりします。
「あっ、ありました！　珪先生、ほら！」
「これは……かわいい、ね？」
　富士山を頭にかぶったにゃんこ。という不思議な造形のキーホルダーを見つけて、思わずほっこりな綾花。猫好きにゃんこスキーとしては、どこでもご当地猫グッズを探さずにはいられないのです。
「これ、買っちゃおうかな。珪先生は、どんなのが好きですか？」
「僕かい？　そうだなぁ」
　少し迷って珪先生が手に取ったのは、先ほどの富士山にゃんこの関連グッズ。富士山の天然水を入れた可愛らしいボトルです。
　綾花の好みを反映してのことでしょうか？　本当のところはさておき、それだけで綾花は嬉しくなってしまいます。
　キーホルダーとボトルを購入して、さて、次はどこへいこうか？　といったところで。
「あ。綾辻さん、ほら、あれ」
「えっ？」
　珪先生が指差したほう。ついと視線を向けてみますと、
「あっ……にゃんこ！」
　ちょっぴりふてぶてしい、富士山のようにどっしりと構えたデブ猫が、くあっと大あくび。綾花たちが近寄っても、逃げるそぶりもありません。
　綾花はさっそく猫メモを取り出し、さらさらさらり。デブ猫を似顔絵とともに書き入れます。
　空気が美味しくて。景色もすばらしくて。珪先生がいて、猫たちもいて。
「幸せですね……」
「うん？　なにか言ったかい？」
「あ、い、いえ！」
　うっかり漏れ出す恋心。なんとかごまかしましたけれど、頬はちょっぴりにやけっぱなし、な綾花でありました。