たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！｜リアクション

たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！

「イザユカン、サンチョーグルメ、デス！」
　もらったチラシを手に、メル・ミラーはぐっと気合を入れる。

　後ろには大きなリュックサックがあった。
　中身は荷物一式、抜かりはない。額にはぐるりと鉢巻きを締め、気合のほどが見て取れる。「山と言えば忍者！　デス！」と、とある観光地にある忍者の里で一式そろえた忍者服と、登山に向いたブーツを纏って山を目指す。

「胸が躍りマスね！」
　ワクワクと山を進んでいくメルだが、困ったことに地図は読めずコンパスの使い方もよくわかっていなかった。
「Oh……Jesus……」
　天を仰いだその時、見知った姿が前を歩いていくのが見えた。
　食堂で名高いスレンダー大食漢ガール、羽生碧南だ。
「羽生サーン！」
　思わず声をかけると、彼女はくるりと振り向いた。
「あ、メルちゃん？」
「トレーニング、デスカ？」
「ううん、山頂のうどん屋に……その恰好は、えっと、ニンジャ同好会とかアメリカで流行りなの？」
「些末なことでゴザルヨ、羽生どの」
「え？」
「トモアレ！　羽生サンも山頂グルメ目的デスネ！　拙者も、グルメには目がなくてデスネ！　グルメ好き同士！　ここは！　共に山頂へ参ろうではないデスカー！」
　誘うと、羽生はにこりと笑った。
「うん、一緒に行こう」
「アリガトーゴザーイマス！」
「そんな大げさな……」

　地図を手にしたメルの手元を、羽生が覗き込む。
「もしかしてだけど、方角逆かもよ？」
「Oh」
「コンパスね、これこっちの方を向けて……今お日様が向こうを向いてるでしょ？」
「タスカリマス……」
　と、深く感謝をするメルの耳に、不穏なうなり声が聞こえた。

「えっと？」
　二人で振り向くより、黒い塊が突っ込んでくる方が早かった。
「うわぁああ！？」
　避ける間もなく、二人もろとも山のふもとまで突き飛ばされる。
「何！？　今の……」
「聞いたことがアリマース、山の頂上を目指すモノヲ蹴落とすイノシシがいると……！」
「え、私たちイノシシに突き飛ばされたの？」
　羽生は困惑した表情だ。
「どうしよう、このまま登っても同じことの繰り返しだよね？」
「案ずるナカレです、拙者に策がゴザル」
　再び山の中腹へ戻る。
「まだ来ない、ね……」
「羽生サンの反射神経を見込んで頼みがゴザル」
「はいはい、なんでゴザロ」
　メルはロープをリュックの口端に結んだ。リュックの中には、山のごみを拾うために持ってきた黒ビニールを入れておく。
「このロープの端を木に括って、しっかり持っておいてクダサーイ」
「了解、任せてクダサーイ」
「真似でゴザルカ」
「ふふ、そうでゴザルヨ」
　二人でいるとイノシシ退治もなんだかレクリエーションじみてくる。
「これを、どうするの？」
「イノシシが走ってきたときに、すかさず引っ張ると、イノシシの顔の高さにリュックの口が上がる罠にナリマース！」
「あ、なるほど……！　え、じゃあイノシシにつっこませるの？」
「Yes！」
「だけど、どうやってイノシシを……」
　と相談しているところに、覚えのある荒い鼻息が聞こえる。
「来た……！」
　パンパンと手をたたいて、メルはイノシシの注意を自分へ引く。
「イノシシコチラ、テノナルホーニ！」
　イノシシがまっすぐに突っ込んでくる。
「今、デス……！」
　すかさず羽生がひもを引く。イノシシはカバンにまっすぐ突っ込んだ。黒ビニール袋のおかげで、すぐには抜け出せない。
　そのまま走って木に頭をぶつけてイノシシが気を失う。

「や、やったー！」
　ハイタッチする二人の快哉が、森に響いた。