たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！｜リアクション

たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！

　父親の勅命を受けて、瞬城真魚はため息をこぼした。
「敵情視察、っていったって……」
　同じうどん屋だ。当然対抗意識は燃えるんだろう。
　そんな一朝一夕で人気を奪われるような店じゃないと思うのは、娘のひいき目だろうか。
　とにもかくにも、父にああもはっきり言われて無下にできるわけもなく
「というわけでさ、山上のうどん屋なんだけど」
　と、幼馴染二人に店の話を持ち掛けた。
「山の上にうどん屋、ですか。これは興味深いですね……」
「なるほど、敵情視察アルか」
「いや、敵情視察じゃないけど……」
「え、違うアルか？」
「でもきっと食べる価値アリですよ。ふっふ」
　と同意するのは蕎麦屋の娘である薄野五月だ。
「登山のあとなら、きっとおいしく感じられるんでしょうね」
「ノリが良くて助かるよ……」
　ふぅ、とため息をこぼす。

　まさか登頂までする羽目になるとは思っていなかった。
「いいか、しっかり視察してくるんだぞ」
　と念を押す父にはいはいと気のない返事をして、山へ向かう。
　別に対抗意識を燃やす、ということはない。父親の努力は見てきて誰より知っているし、そんなに焦るほどのこともないだろうと、おおらかに構えている。
　店の客足だって、そんなに少ないわけじゃない。
　と、いくら言って聞かせたところで当の本人が不安ならば仕方ない。父の不安をぬぐうのも、正直いい迷惑だが、娘の役目だ。
　友人二人が同行してくれるのが、せめてもの幸いか。

　山登りは問題なく、順調に進む。
　途中で畑中が元気に歌いだしたり、薄野がややくたびれてしまったりはしたものの、スムーズに、つつがなく、元気に山を登り切った。

「お、見えた見えた」
　うどん屋の暖簾が、涼し気に風にたなびいている。
「お手並み拝見アルね」
「だから、敵情視察じゃないってば」
　とは言いつつ、目はしっかりとメニューをなぞってゆく。

（なるほど、店主さんは香川出身っぽいな……）
　と、察したのは香川県のうどんの定番、おでんがそばに添えてあるからに他ならない。
「注文いいですか」
　声をかけると、人のよさそうな女性が返事をした。
「かけうどんのひやあつ、それから卵とすじ肉を……」
　セルフ式ではなく、一般店方式だ。
（確かに、香川流いきなり持ち込んじゃったら普通の人びっくりするよね……）
　サイドの揚げ物メニューから、鶏天とちくわ天を注文する。

「ん、美味しいアル！」
「これはいけますね……」

　と二人がじっくりうどんを味わっているうちに、こっそり席を立ち、先に三人分の清算を終えてしまう。付き合ってもらった手前、このぐらいは格好をつけさせていただきたい。

「何してるアルかー？」
「麺伸びちゃいますよ」
　と二人に呼ばれて「今戻るから」と、いそいそと席へ戻る。
　その途中、店の女性が「もしかして」と声をかけた。

「またたぎ亭の？」
「……はは」
　知られていたとは思わなかった。向こうもこちらをマークしていたのだろうか。ばつの悪い笑いが浮かんでしまう。
「同じうどん屋同士……その、いろいろとよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。今日は来てくださって、ありがとうございますね」
　女性はにこやかに微笑んで、深く礼をする。

（父さんが迷惑かけなきゃいいけど）
　人当たりのよさそうな女性の背中を見送って、ひそかにまたため息をこぼす瞬城だった。

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あとがき

担当マスター： 39番地
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こんにちは。
39番地です。
リアクション作成中どうにもうどんが食べたくなってしまい、あれかな、これかなと何軒かうどん屋をはしごしてみました。
改めて食べると、ありふれた料理でもずいぶんお店で違ってなかなか趣深いものですね。

イノシシの難もありながら、皆さんがそれぞれに山頂でのグルメを楽しんでいただければ幸いです。
またのご縁をお待ちしております。

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