たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！｜リアクション

たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！

「わぁ」
　町で配られてているチラシを受け取り、思わず綾辻綾花は声を上げた。
　描かれているのはうどん屋の数々の絶品だ。筆致も鮮やか、柔らかい色使いで、見るもおいしそうなうどんがほわほわと湯気を上げている。
　綾辻は場所を確認した。
　猫鳴館からは、そう遠くない。

　インドアに見えて、山道は結構得意だ。

「行ってみたいなぁ」

　そんなことを呟きながら、ふと顔を上げると目の前にいつの間にか野々ののこがひょこんと姿を現していた。

「何それ？」
「あ、ののこちゃん」

　野々はこてっと首を傾げた。

「チラシ？」
「うん、山頂に美味しいうどん屋があるんだって。よかったら、ご一緒にどう？」
「お、いいねいいねー！　山登り楽しそう！　今から行くの？」
「そのつもり、だよ」

　そういう野々はかなりの軽装だ。綾辻は少し心配そうに、声をかける。
「良かったらお洋服の支度とか、一緒にしようか」
「いいの？」
「こう見えて、登山は慣れてるんだよ、私」
「ほうほう」

　野々は元気にうなずいた。
「じゃあお願いしちゃおっかな」
「うん」
　山に向かう前に、一度二人で寮へ向かうことにする。
　靴や長袖のパーカー、ズボンを見繕い、虫よけスプレーを備えて、準備を整えた。

「結構厚着するんだね」
「植物で体を傷つけることもあるし、虫刺されなんかも多いからね」
「山ってうかうか上がれないねー」
「そうだね、山頂の天気は変わりやすいし……」

　そんな話をしながら、木陰の道を進んでいく。
「あ、鳥」
「え、どこどこ？」
「あっちの方……あ、いっちゃった」
「見れなかったなぁ、残念……」
「すごいカラフルできれいだったよー」
「バードウォッチングも楽しそうだね。また来たいな」
「そうだね、あんまちゃんと来たことなかったけど、気持ちいいし」

　しばらく歩いた先、ぽっかりと景色が開けた。
　山の上のうどん屋の暖簾が、風に揺れている。
「空気もおいしいね」
「ね！　なんかすごい澄み渡ってるみたい」
　野々が楽しげに笑った。
　その笑顔を見て、一緒に登頂できた喜びを綾辻はじんわりとかみしめる。

「じゃあ、ちょうどいい時間なので早速」
「お店へゴー！」

　たのもー、とふざけて野々が暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
　若い女性がにこやかに出迎える。

　景色の良い席を選んで座った。
　野々が早速メニュー本を開く。
「注文どうする？」
「じゃあ……私は、おろし醤油うどんと海老天」
「私はー、じゃあカレーうどん！」
　頼んだメニューが届くのを待つ間、窓の向こうから景色を見渡した。
　晴れているから、ふもとのほうまでよく見渡せる。
「なんだか町が小さく見えるね」
「山登った！　って感じがすっごいいいね、達成感ある」
　じきにうどんが出てきた。
「いただきます」
「いっただっきまーす！」
　つるりとしたのど越しがたまらない。さっぱりしたつゆが一緒に喉を伝い落ちていく。
「これは……」
「うんうん、絶品だね」
　カレーうどんを頼んだ野々はふーふー吹きさますのに忙しい。
　服を汚さないように気を付けながら食べるのを、さながら姉のように手助けする綾辻だ。
「ののこちゃん、足は痛くない？疲れてない？」
「うん、全然平気。まだまだいけるよー！」
「あんまり山登りのイメージないから、ちょっと体調が心配で」
「心配性だなー。元気なら誰にも負けないよ！」
　腕を振って見せる野々を見て、綾辻は思わず笑った。

　あっという間に、どんぶりが空になる。
「ごちそうさまでした」
「ふあー、食べた食べたー！　おなかいっぱいだよ」
「ちょっと休憩してから降りましょうか」
「うん。また来ようよ、今度はバードウォッチングとかでさ」
「いいね。次は、お弁当持ってきてもいいし、またこのお店に来るのも楽しそう」
　そんな話をしながら、流れる雲をぼんやりと眺める。
　昼下がりが穏やかに、過ぎていった。

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