夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～｜リアクション

夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～

●開く扉（１）

「これが、扉……！」
　三夜湖を縁から覗き込んで、恵御納夏朝は呟くような声を漏らした。
　オーロラのような光が、三夜湖の底にゆらゆらと揺れている。
　その光は、夏朝達の目前で、徐々に集束し、扉の形を成して行った。
「あの扉から出てくんのか」
　そわそわとした声で零したのは、卯木衛。
　本人的には冷静を装っているのだが、実際のところ、その試みは成功しておらず、
（うーちゃん、見るからにわくわくしてるねぇ）
　なんて、壬生由貴奈に、優しい眼差しを向けられていたりする。
　一方、夏朝達と同じものを目に、柳内みことはきゅっと口元を引き締めていた。
（異界の客人、どのような存在が来るのでしょうか）
　同行の皆の反応を見るに、険呑なものがやってくるという感じではない。
　けれどみことにとっては、相手の得体が知れないのは変わっていなかった。
（そのようなもの相手に、警察がどうこうできる訳がありませんわよね）
　ならばここは、みことが踏ん張り、見極めるべきところだ。
　扉が、一層眩く輝く。
　湖面に、無数の影が現れた。『御遣い』の到着だ。
（何が起ころうとも驚かないよう、心強く、状況にきちんと対応して……）
　いかなければ、と、みことが胸の内に紡ぐことは叶わなかった。
　光に目が慣れれば、目前に臨めたのは翼獣達の姿だ。
　黒豹のスマートな体躯に、猛々しい鷲の翼。
　その見目は、みことの胸を『きゅん』という音が聞こえんばかりにときめかせる。
　みことがうっとりとしているその横を、
「カイくん！！」
　衛が、風の如くに疾駆した。
　その目が探したのは、その足が目指すのは、たった一頭。
　ぎゅうと抱き締められた翼獣カイが、くぅ、くぅ、と衛を呼ぶ。
　毛並の滑らかさを、規則正しい息遣いを暫し身体中に感じたあとで、

「カイくん、こないだぶり！！　元気してたか！？」
　と、カイから身を離した衛は、光が弾けるような声で言った。
　返るのは、くるる！　という元気な鳴き声。
「よかった！　俺も超元気だったぜ！　ほら！」
　はしゃぐ衛のすぐ傍らで、由貴奈も翼獣ミケをもっふもっふ。
　つやつやともふもふを両立させたミケの毛並は、由貴奈のお気に入りだ。

「ミケ、ひさしぶりー。ちょっと前ぶりだねぇ」
　先にも再会を果たし、２人と２頭で寝子島を巡った思い出が頭を過ぎる。
「カイくんも一緒みたいでよかったよかった。今回も、うちはうーちゃんといっしょだよぉ」
「うん！　前と一緒で、由貴奈さんとも超仲良しだ！」
「今日は、ミケたちをおもてなしする日なんだって。御馳走もあるんじゃないかなぁ」
　凛々しいカイも、むすっとした表情がデフォルトのクールなミケも、これにはピクッと反応。
「なあ、カイくんは何が食べたい？」
　視線を合わせて衛が問えば、カイは、由貴奈の方へと顔を向けた。
「お、由貴奈さんのクッキー？　わかるー！」
「なら、クッキー持って来てよかったよぉ」
　ミケもカイくんも一緒に食べようねぇ、と微笑む由貴奈。
　ちなみにそんな由貴奈の手は、会話の間中、ミケをなでなでしていた。もふもふ。