夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～｜リアクション

夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～

●開く扉（３）

　仙藤紫の元にも、１頭の翼獣が嬉しげに駆け寄っていた。
　紫と縁の深い、翼獣モモ。
　モモに向かって静かに笑みかけて――その時、紫ははたと気付いた。
（あの子たちは……）
　モモの後ろを、懸命に、転がるように追いかけてくるちっちゃな２頭の子翼獣。
　ぬいぐるみみたいな２頭は、みぃ、みぃ、と、甘えるような声でモモを呼んでいる。
　まるで、「お母さん、お母さん」と言っているみたいだ。
（モモ……いつの間にか、お母さんになったのね）
　子翼獣を足元に纏わりつかせているモモへと、
「この子たち、モモの子供？」
　と尋ねれば、くくる！　と、何とも元気のいいお返事。
　そんなやり取りの間にも、子翼獣達は、紫に「遊んで、遊んで」とちょっかいをかけてくる。
　その愛くるしさに、紫は、ふわりと口元を緩めた。

「ぷーちゃん！！！」
　懸命に駆けてきた子翼獣――ぷーちゃんを、屋敷野梢は、両手を広げて迎える。
「また大きくなって！！　ぎゅーしましょ！　ぎゅー！」
　抱き締めたなら、ああ、少し重たくなったな、と、感慨が心に染みた。
　会う度に、少しずつ成長しているぷーちゃん。けれど、
「みゅう！　みゅう！」
　と、梢を呼ぶ甘えた声は、梢が知っているままのものだ。
「今日は、ちびっこもたくさん来たんですねー」
　ぷーちゃんは少しお兄ちゃんでしょーか？　と零せば、
「みゅ、みゅう！」
　と、ぷーちゃんは誇らしげに胸を張る。えっへん。
　その姿に、梢は口元には笑みを乗せたままで、微かに眉を下げた。
（たくましく育って、嬉しいような寂しいような……ですね。って、）
　梢、ここで、ハッとする。
（なんかさっきから、田舎に住む親戚の人みたいになってるきがします！）
　違いますよ！　と、梢は、ぷーちゃんのふわふわのほっぺに、頬ずりをした。
「私は、ぷーちゃんのおねーちゃんなんですから！」

　恵御納夏朝も、翼獣御夜との再会を果たしていた。
「御夜ちゃん、久しぶり！」
　ふわふわの頭を撫でてやれば、手のひらに陽だまりみたいな温もりが染みる。
　それから夏朝は、ぐるりと、辺りを見回した。

「御夜ちゃんも、皆も。元気そうで良かった！」
　くるる、と喉を鳴らして、そっと頭を夏朝へと擦り寄せる御夜。
　その温度とふわもふ加減に、夏朝は仄かに表情を綻ばせた。

　翼獣ヨクとの再会に、八神修は、喜びの感情を弾けさせる。
「ヨク！！」
　駆け寄って、ぎゅっ、とハグ。
　鼻先を擦り寄せてくれるヨクへと、
「よく来てくれたね」
　と弾む声を手渡して、修は、ヨクの力強い身体をわしわしと撫でた。
　ヨクは、何もかもを見通すような聡い眼差しをして、なすがままにされている。
（もしかして、引率の１頭なのかな？）
　と、修は温もりを抱き締めたままで考えた。
　ヨクなら、その役割を十分に果たせるだろう、とも。
「世界を渡って、疲れなかったかい？　ほら、行こう。歓迎するよ」
　身を離して、睦達の方へとヨクを促す。
　そうして修は、辺りの翼獣達に向かって、声を張った。