「たっ、たたた大変です! 犬杜さん!」
ここは、旧市街に位置する何でも屋『いぬもり』。
とび込んできた丸眼鏡の少女・
八千代 透子は、突然のことに瞳を瞬かせる
犬杜 一閃へと、
「これ! これを見てください!」
と、興奮しきり、一冊の古い古い本を差し出した。
ことり、首を傾げる一閃。
「? この本は?」
尋ねれば、ぐいと身を乗り出した透子の瞳が、丸眼鏡の奥できらりと光る。
「昔、先代さんに、三夜湖の底に現れる光の扉の話を聞かせていただいたんです! それで私、やっと見つけました! この本、寝子島の古い言い伝えを纏めたもので、その扉についての記述があるんです! 明後日! 次に扉の鍵が開くのは、明後日の日曜日の夜なんです! 1000年に一度のことらしいですよ! 扉の向こうは寝子島と縁深い良い異世界に繋がっていて、そこから客人がやってくるとか!」
つまり、そういうことであるらしい。
と、テンションMAXだった透子、ここでちょっと我に返ったようにすいと身を引き、小さく眉を下げた。
「それで、あの……実は私、相談したいことがあるんです」
「相談?」
「……1人だと、私、どきどきしてしまって」
良い異世界からの客人とはいえ、真っ当にコミュニケーションが取れるかもわからないのだ。
「でも、誰かと一緒なら、落ち着いて対応できると思うんです」
――そしたら、言葉が通じない相手とだって、仲良くなれるかも。
透子の言葉を耳に、一閃は淡く口元を緩める。
「なら、俺からも知人に声をかけてみよう。店の前にチラシを貼ってもいい」
透子の眼差しが華やぎ、その唇を安堵の息が揺らした。
そしてその日、何でも屋『いぬもり』の前に、ごく簡素な1枚のチラシが貼り出された。
○三夜湖の伝説に興味がある方、募集○
※日曜日の夜、外出が可能であること
※僅かながらアルバイト代、出します
◇
一方、三夜湖の畔では――1匹の猫が、落ち着かない様子でうろうろとしていた。
(ああ、ああ、どうしよう。何度下見に来ても、落ち着きません……)
銀色の毛をした、小さな子猫だ。
瞳の色は、深い深い青色。
(僕ひとりで、御遣いの皆さんのお相手をするだなんて……)
(いやでも、僕だって、お三夜さまの立派な眷属……の、見習いですし!)
(でもでもやっぱり、緊張するなぁ。失敗したら、僕、見習いを卒業できないんだから)
(……御遣いの皆さんが、はしゃいで無茶をしたりしたら……うう、胃がぁ……)
銀色子猫――名前は、睦(むつ)という――は、またそわそわとして湖の畔を歩き出した。
お世話になっております、巴めろと申します。
このページを開いてくださってありがとうございます!
以下、シナリオの詳細でございます。
このシナリオの概要
8月のとある日曜日の夜。
1000年ぶりに、三夜湖の底に光の扉が現れ、その鍵が開かれる――。
その伝承を知って、何でも屋『いぬもり』に、三夜湖への付き添い探しを依頼した透子。
そういう次第で、一緒に三夜湖へ向かう仲間(?)が、募集される運びとなりました。
同行者には、僅かながらアルバイト代も出ます。
なお、一閃は急な仕事で同行できません。
これは透子も知らないことですが、扉の向こうからやってくるのは、異世界に生きる翼獣(詳細は後述)達。
その夜には、寝子島の古い神・お三夜さまの眷属(の、見習い)も三夜湖にやってきて、翼獣達を歓迎します。
PC様方も、三夜湖で行われるささやかながら不思議な宴会を、どうぞお楽しみくださいませ。
宴会の間、辺りは魔法の蛍火に柔らかく照らされます。
食べ物・飲み物は、後述の睦が、ぽんっ! と不思議な力で用意いたします。(大体何でも用意できます)
お三夜さまの加護で、夜の間、湖は美しい硝子が張ったようになり、その上でも自由に過ごせるようになります。
また、これもお三夜さまの加護で、この晩、九夜山に一般人が侵入してくることはありません。
なお、悪気は一切ないのですが、ちょっとやんちゃすぎる子翼獣達もいるようです。
彼らは、三夜湖周辺から何とかして出て行ってやろう! 探検だ! と画策しています。
彼らが色々やらかしてしまうと、寝子島は大騒ぎになる可能性がありますし、
睦は、見習いを卒業できなくなってしまいます。
何かしらの方法で子翼獣達の気を引いてあげると、睦もお母さん翼獣達も、ものすごく助かります。
翼獣は当方が担当させていただいたシリーズシナリオ等に登場しておりますが、
それらをご参照いただかずとも、全く問題ございません。
はじめましての方も、『登場NPC』の項を参考に、自由にアクションをかけてくださいませ!
登場NPC
○八千代 透子
不思議を愛する寝子高2年生。
三夜湖の伝承についても地道に調べ続けていたのが、今回実を結びました。
実際に目前で繰り広げられる不可思議な出来事の数々に、興奮&ちょっと緊張。
○睦(むつ)
お三夜さまの眷属見習い。銀色の毛に青い目をした雄の子猫。
此度は、和風の装束を着た、銀髪の少年の姿で現れます。(猫の姿にも戻れます)
翼獣達をちゃんともてなせるかに、見習いを卒業できるかがかかっているとか。
真面目で素直、一生懸命な性格の男の子です。
○翼獣
獅子ほどの大きさの黒豹に似た獣。背中には鷲の翼が生えています。子翼獣(ちっちゃい)もいます。
人間の言葉こそ喋れないものの高い知能を持ち、人間と心を通じ合わせることができる生き物です。
これまでに彼らが登場したシナリオを経て、基本的に、人間という存在に心を開いておりますので、
友達になりたい! という素直な気持ちさえあれば、すぐに仲良くなることができます。
過去シナリオで既に名前を得た翼獣達の登場を指名できるのは名付け親のPC様のみとなります。
何でも食べます。豹や鳥に食べさせてはいけない物も、問題なく、美味しく食べられます。
また、これまでに縁を得た翼獣と行動を共にする場合は、
イメージの乖離を防ぐため、翼獣の特徴・性格等を必ずご記載くださいませ。
必要がございましたら、今回は、リアクションの該当ページへのリンクも参照いたします。
○犬杜 一閃
何でも屋『いぬもり』の主。
透子が先代(一閃の父親)に不思議な話を聞きに来ていた関係で、彼女と知り合いです。
三夜湖の光の扉の噂は彼の父が遺したノートにも記述があったので、噂のことが気になっている様子。
基本的に、今回のリアクションには登場しませんが、
PC様の働きかけの内容次第で、ちょっぴり登場する可能性はあります(宴会には不参加です)。
それでは、1000年に一度のちょっぴり不思議な時間、どうぞお好きなようにお楽しみくださいませ。
ご縁がありましたら、よろしくお願いいたします!