夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～｜リアクション

夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～

●開く扉（２）

「リブ！？　それに、チビ達も！　皆、元気そうじゃねーか！」
　楢木春彦の声に、呉井陽太はハッと我に返った。
　その時にはもう、春彦は翼獣リブ達の喜びのアタックを食らい、地面に転がっている。
「だーかーらー、くすぐってーって！　って、どうした、呉井？」
　リブと５頭の子翼獣達を順繰りにわしゃわしゃと撫でてやりながら、春彦。
「あー……ちょっと、びっくりしちゃって」
「びっくり？」
「こんな形でまた会えるなんて思ってもみなかったから、心の準備が……」
　自分自身に苦笑いをする陽太の足元に、ころころと、子翼獣がじゃれついてくる。
　その温もりは、間違えようもなく本物だった。
「……幻でも何でもないんだねぃ」
　扉が開いてすぐに感じ取ったことを、改めて実感する。
　顔を上げれば、視線の先に、翼獣ムクのあたたかな眼差しがあった。
「ムク！！」
　名前を呼んで、駆け出す。
　ムクも、陽太の声を合図にしたみたいに駆けてきて、頭をそっと陽太に擦り寄せた。
　その大きな身体を、ぎゅうと抱き締める。

「ムク、久しぶりーっ！　また会えて嬉しいよぅ♪」
　陽太とムクの再会の様子に、子翼獣達にもみくちゃにされながら目元を和らげて、
「そうだ、睦！」
　と、春彦は、目に見えておろおろとしている睦へと、笑みの混じる声を投げた。
「は、はいぃ！」
「そんな固くなってねーで、安心しろって！　コイツらだったら、全然心配いらねーぜ」
「うんうん、春彦君の言う通り。翼獣たちは穏やかな性格で、いい子たちばかりだよぅ♪」
　睦の緊張を感じ取って、陽太も言葉を続ける。
「そうそう、凄ぇイイ奴らなんだ。前にも来たコトあるんだぜ」
「へ？　前にも？　……何でだろう？　世界間の境界が、一時的に緩んだのかな……」
　口元に手を宛がい、ぶつぶつと独り言を零し始めた睦。
　春彦と陽太は、真面目そのものという表情で考え込んでいる睦を目に顔を見合わせ、
「……睦君って、もしかして、結構難儀な性格だったり？」
「もしかしなくても、だろ」
　なんて、低く零し合った。
　リブやムクも、「同感だ」とばかりに、くるる、と喉を鳴らす。
「睦さん、考え事は、あとでにしませんか……？」
　そんな睦へとそっと声をかけたのは、御巫時子だ。
　はたと、我に返る睦。
「そ、そうですね。御遣いの皆さんを、完璧におもてなししないと……」
　緊張がぶり返してきたらしく、睦が声を上擦らせる。
　そんな睦の頭を時子は柔らかく撫で、顔を上げた睦へと花綻ぶような微笑を向けた。
「睦さん、深呼吸ですよ……。落ち着いてくださいね……」
「は、はい……」
　大きく息を吸って、吐いて。
　幾らか平常心を取り戻した様子の睦へと、時子は優しい声で言った。
「宴会の準備、お手伝いさせてください。翼獣さんたちの好きなものは何でしょうね？」
　色々用意して並べてみましょうか、との時子の提案に、睦がこくりと頷く。