夏休み１日前！｜リアクション

夏休み１日前！

○幼馴染の中二会話

「ふむ、これが今季の俺に対する裁定者の審判か」
　成績表を手に怪しい台詞を吐く折河樹、まさに中学二年生。
　小説の世界観に深く入り込んで登場人物のロールプレイをするのが得意で、妄想癖と合わせて軽度の厨二病な行動をとるのが通常運転。
「うむ、流石宵闇の堕天使の加護を受けし俺、我が創造主へ献上しても誇れる素晴らしいできだ」
　ドヤ顔で言う。イタい台詞も、つり目でアシンメトリーの髪型、なかなかの美形なのでけっこうサマになる。
　要するに親に見せても怒られないだろうというニュアンスのようだ。
「成績表見るのイヤすぎる～」
　同じ２年３組の教室でそうつぶやいている、つり目でかわいいツインテール女子は観月光。
　誰にでも明るく接し、人見知りもしないと、非常に社交的だ。
（……また数学ダメダメだし、お母さんに怒られる～）
　しぶしぶ開いた成績表を見て、ため息と共にまた閉じる。

　後ろにいた樹がペンの尻で光の肩をつついた。
「くっくっく、我が盟友光よ……裁定者の審判はどうだった？」
　光と樹は幼馴染だ。
　わけのわからない事を言う幼馴染に光は手を焼いている。
「はあ？」
「お前の創造主を嘆かせる出来なのか？　どれ、我が盟友光よ、今こそ決闘の刻！」
「……創造主……って、ああ。親のことか……要するに成績表を見せあって勝負しようってことね、分かりづらすぎなのよ！！」
　首をひねった光だが、さすが幼馴染、謎の言葉の解析に成功した。
　さらに樹は畳み掛ける。
「総合の勝者には敗者が甘露なる液を進呈するというルールでどうだ？」
「甘露なる液……？？　……ジュースのことか。い、いいけど！？」
　頑固で負けん気が強く意地っ張りな光は、ついＯＫしてしまった。
　しかし、ニヤリと笑う樹の表情を見て即座に後悔した。
（やばい、絶対負けてる！！）
　だがもう樹は光の成績表を開いている。
「ほう……なるほど、お前の力はこんなものか。見よ、我が能力（ちから）思い知るがいい！」
　鼻先に突きつけられた樹の成績表を見つめ、光は肩を落とした。
　
　放課後。
「くくく、我が盟友光よ、いよいよ明日から灼熱の安息日だな！」
　おごらせたジュースを飲みながら樹は言う。
「灼熱の安息日……夏休みね、はいはい」
　ジュースをおごるはめになった光も、自分の分の缶を手に、中二用語を翻訳する。
「心狂わす多数の遊戯が俺たちの心を誘惑してくるが、どのように過ごす？」
　有名ネット小説家になるのを夢見て昼夜問わず様々な設定の夢想にふける樹だが、中学生らしい遊びにだって惹かれる。
「何するかって話？　あたしは特に何もないけど、家でごろごろしてようとか思ってたし」
　社交的だが、家で過ごす時間も好きな光だ。
「俺としては大いなる生命が還りし場所に行くのがいいと思うのだが」
「お……大いなる生命が還りし場所……？」
　謎の言葉に、さすがに光もしばらく悩む。
「……あ、海のことか。って、ちゃんと海って言いなさいよね！！　マジで分かんないから！」
　光が声を上げても、樹はちっとも謎の言葉を改めようとしない。
「む、その前に裁定者から与えられし呪縛を払ってからがいいか？」
「さ……裁定者から与えられし呪縛……？　えーと、えーと……、……あ、宿題か！」
（ってクイズかこれは！！）
　頭を抱えたくなりつつ、律儀に返事してしまう苦労人の光。
「別にいいよ、その方がぱ～っと遊べるしね」
　光の返事に、満足そうに頷く樹だった。