夏休み１日前！｜リアクション

夏休み１日前！

○小学校のホームルーム

（何故校長先生のお話はいつも長いんだろう？）
　６年生の佐藤瀬莉は、蒸し暑い中を耐えながらこっそり時計で計っていた。
　瀬莉は時計が大好きなのだ。
「ではこれで校長先生のお話を終わります」
　雨宮花三郎校長先生が、ようやく壇を降りていく。
（先週の全校集会より4分48秒も長かった……）
　残念ながら今までの校長先生で、お話が短い人を見たことがない。
（お話が長くないと校長先生になれないのかなあ？）
　そんなことを考えながら、やっと終業式を終えて瀬莉は教室へ戻ってきた。

（エアコンのきいた教室……ああ天国……）
　みるみる汗が引いて、火照った身体が涼しくなる。
　気持ちよくてぐでーっとしてたら、先生が入ってきた。
「ホームルームを始めます。では、名前を呼ばれたら前に取りに来てね」
　先生が通信簿を取り出した。
　えーっ、と何人かの声が上がったけれど、瀬莉は涼しくて気持ちよくて先生の声を子守唄に半ばうとうとしていた。
「佐藤瀬莉さん」
「……はい」
　そんな中名前が呼ばれ、あわあわと通信簿をもらいに行った。
　そっと開いてみる。
　ほとんどの科目は◎、いくつかは○。
　まあまあかな、と安心したけれど、先生からの一言の欄はあいかわらずだった。
『よくがんばっていますが、字が読みにくいです。もう少しがんばってていねいに書いてください』
　瀬莉の顔から笑顔が消え、ため息をつく。
（通信簿、親に見せたくないなあ……）

　
　４年２組では、瑠樹が通信簿を受け取っていた。
「……どきどきするねぇ」
　すぐには開けず、皆が受け取り終えるのを待つ。
　皆が席に着くと。
「えいやー！」
　隠そうともせず机の上に広げる。
「やったぁ、体育が◎だぁ！」
　歓声をあげた次の瞬間、ちょっとしょげた表情になる。
「でも、音楽が△だぁ……」
　他はおおむね○なのだが。
（音楽は……やっぱりお歌の事がひっかかってるなぁ……大きい声で歌いましょうって言われたら困るねぇ）
　歌は嫌いじゃない。けど、瑠樹は致命的な音痴なのだ。
（オレ、音痴だから、他の人達のお歌を邪魔したくないんだよぉー！）
　悩ましいが、気持ちを切り替えて他の人にも聞いてみることにした。
（桃井さんや他の人にも聞いてみたいねぇ。もちろん内緒にしたいならそれでいいし）
「通信簿、どうだったかねぇ？」
　近くの席にいたかんなに声をかけた。
「……悪くないわ。曖浜はどうだったの」
　いつも通りクールな表情でかんなは答える。
　表情から成績を推測しようなどという発想は瑠樹にない。
「ああ、オレの通信簿見せるよぉ」
　躊躇なく広げた通信簿にチラリと目を向けたかんなだが、興味ない、といった風にすぐに視線をそらす。
「別に見なくていい」
　さっき瑠樹が上げた声は聞こえたので、体育と音楽の結果は知っている。
「そっか」
　瑠樹は気にせず他の子に声をかけることにした。
（明日から夏休み、色々たっぷり楽しむよぉ！　宿題も……忘れないようにやらないとねぇ）