夏休み１日前！｜リアクション

夏休み１日前！

○下校

「いよいよ明日から夏休み。学校も終わったから帰るだけ……おや」
　５年生の剣崎一心は、昇降口で気になる顔を見つけた。
（あそこにいるのは……桃井かんなさんっす！）
　最近まで剣の腕を鍛えてばかりいたせいで女の子との交流は皆無だった一心。
　女の子とは恥ずかしくて赤面してしまいまともに会話できなかった。
（見たところ今帰るところっすね……よし！　一緒に帰ろうってお誘いするっす！　恥ずかしいけど、男は度胸っす！）
　そんな一心もかんなとは、もう少し仲良くなりたいと頑張っているのだ。
「あの、一緒に帰らないっすか？」　
　昇降口を出ようとするかんなを追いかけ、声をかける。
「……別に、いいけど」　
　ちらりと一心を見てクールに答えるかんな。
「よかったっす！」
　一心はかんなの隣を歩きだした。

（何か話すっす……話題は……そうだ、夏休みに何をするかって話すっす！）
　女子と話すのはまだまだ難しいが、せっかく一緒に帰れるのに無言ではもったいないし気まずい。
「……明日から夏休みっすね。自分は、まず明後日までに宿題全部終わらせるっす！」
「そうなの？」
　相変わらずクールなかんなだが、声にちょっと驚きの色があった気がする。
「もう、夏休み終わりに苦しい思いをするのは嫌っすから……」
　一心は遠い目をしたが、上がったテンションは衰えず、しゃべり続ける。
「宿題を終わらせたら後は自分を鍛えるための修行！　そして剣の腕を鍛えるための修行をするっす！」
「剣崎いつも竹刀もってるよね」　
　ぽつりとかんなが言った。その通りだ。かんなが気づいていてくれたことに一心は嬉しくなった。
「寝子島もすごく奇妙で危ない噂が多いっすから、その時に備えてこの夏で強くなるっす！　そうすれば誰かが危ない目に遭ってたら助ける事ができるっすからね！」
「……子供なんだからあんまり無茶しないほうがいいと思うけど」
「……そうっすね。気をつけるっす！」
（ひょっとして心配してくれてるっすかね？）
　子供のくせに、と思われてるのかもしれない。
　でもありがたく心配として受け取っておくことにした。
（はっ！　……自分ばっかり喋っちゃったっす。桃井さんは何をするんだろう？）
　一通りしゃべって我に返り、聞いてみる。
「あの、桃井さんは、やっぱりどこかにお出かけとかするんすかね？」
「まだわかんない」
　そう答えが帰ってきたが。
「もし島にいるなら、桃井さんがよければ一緒に遊んでほしいっす！　その、せっかくの夏休みっすから桃井さんと色んな場所に行っていっぱい遊びたいなって思って……」
　話しながら一心は自分でも驚いていた。
（まさか女の子が苦手な自分がこんな事思うなんて、本当にどうしちゃったっすかね……）
「ヒマだったら、いいけど」　
　大胆すぎるかと思ったが、良い返事が返ってきた。
「良かったら、電話番号を教えあいたいっす！」
　ならば、と一心は踏み込む。
「えっ？」
　かんなは驚いた顔をしたが。
「夏休みじゃ連絡しないと会えないっすから……」
「まあ、そうだよね」
　二人は電話番号を交換した。昔はクラスの電話番号一覧が配られた時代もあったそうだが、今は個人情報保護のためそういうことはないのだ。
「家まで送るっす」
「いいよ、昼間だし」
　かんなはそう言ったが、一心はかんなを家まで送り届けた。

「よぉし、帰ったら早速宿題をやるっす！」
　一心は、逸る気持ちのまま走りだした。
（早く終わらせて、一日も早く桃井さんと会えるよう頑張るっすよ！）

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