夏休み１日前！｜リアクション

夏休み１日前！

「うう……もう、起きなくちゃ……」
　旧市街の一戸建ての自室で中学三年の仙藤蒼は、朝、のろのろとベッドから這い出した。
　昨日もつい遅くまでゲームをしてしまったので、まだまだ寝足りないが仕方ない。
（今日さえ終われば、明日からいくらでも寝ていられる……）
　自分を奮い立たせて、しわくちゃのＴシャツとショートパンツをベッドの上に脱ぎ捨て、制服に着替える。
　そして部屋から出て階段へ向かう。

　姉である大学生の仙藤紫は、少し早めに起きて身支度をして、ダイニングのテーブルについていた。
　父は既に出勤済みで、紫ももう朝食も済ませている。
　紫は大学で使う社会学のテキストを読みながら、時折スマホで時間を確認していた。
　妹が起きてくる時間を気にしているのだ。
（蒼、起きてこないわね……まだ起きないなら、私が起こしに行かなくちゃ）
　夏休みならいいのだが、今日は中学の終業式の日のはずだ。
（昨夜も３時くらいまで起きてゲームしていたわね。さすがに今年は中学３年生だからゲームばっかりしているってわけじゃ……いや、それでもあの子はゲームばっかりしていそう）　
　などと取り留めなく考えていたら、蒼がひどく眠そうな表情で降りてきた。
（どうやら起こさずに間に合ったようね）
「……おはよう」
　眠そうな声で母と紫に挨拶した蒼は、ダイニングのテーブルに着き、ミルクとクロワッサンをもそもそ食べ始めた。
「おはよう」
　母と紫は、その様子を半ば呆れながら見て挨拶を返す。
　食べ終えた蒼は洗面台に向かい、歯磨き洗面をして、髪を櫛で梳いた。

　戻ってくると、少し時間があるのか蒼はぼやき始めた。
「終業式かあ。校長先生の話が長ったらしいから、暑い日や寒い日にやられると本当にしんどいのよね」
　聞いていた紫はおだやかに返事をした。
「じゃあ、寝子高には行けなくなるわね」
「えっ？」
「寝子高の校長先生はものすごくおしゃべりが大好きだから」
　紫は去年まで寝子高生だったのだ。
　先生の話が長いのは寝子高だけの話ではないだろうが、その上寝子高では神魂の影響でいろいろ不思議なことが起こる。
　寝子高に入って校長の長話を聞かされる蒼の嘆きのリアクションは容易に想像できた。
「えー？　勘弁してよ」
　ますますゲンナリする蒼を見て微笑み、スマホに目をやって紫は言った。
「もう時間よ」
　蒼はカバンを手にしてテーブルを離れる。
「それじゃ行ってくる」
「いってらっしゃい」
　その背を見送りながら紫は思う。
（明日からは遠慮なく寝坊するんでしょうね）
　なんだかんだ言いつつ仲のいい姉妹なのだ。

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