耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。｜リアクション

耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。

「ちわー、畑のオッチャン！　収穫祭だっつーんで、いっぱい作りに来ました～！　まずはかまど作っても良さそーな所、教えてくださーい！」
　宇佐見望月は顔を出した途端、ラグビーのタックルかと思うくらい、耕作に熱くハグされて咳き込んだ。
　姪の大田原いいなが、思わず望月達から距離を取る。
　肌を露出することを厭う彼女は、今日も某少年から借りたままになっている、緑のコートに身を包んでいた。
　すでに人が集まり始め、賑やかになってきた畑家の庭で、いいなは彼女にはいささか大きすぎる、コートの前を掻き合わせた。
（……まあ、とうもろこし食い放題はわかるがの。儂は暫くは、斯様な場には来たくないと言うておったのに）

「オッチャン、ちょっと落ち着いて！？」
　望月はもみくちゃにされ、皆も生暖かい視線を送ってくる。
「かまど、作りたいんだけどなぁ～……」
　控えめな要求では、しつこくチュッチュしようとする耕作に、届かない。
　望月は仕方なく、そふとに水を向け、どうにか持参したブロックを積み上げる場所を決めた。

「こうして冷えたら分解できるようにして、自然に悪影響与えないようにするんだ。畑とかの上でやったら、ドジョウにょろにょろ……じゃねぇ、何だっけ？　土の中のちっちゃな生き物が死んじまって、次の年の作物に影響が出るらしいぜ」
「へえ、先輩詳しいですね～」
「環境にまで配慮してくれるなんて、ワシャ感……！」
「ジジイは、もういいから！」
　しつこい爺を方向転換させ、祖母に注意を逸らしたそふとは、興味深そうに望月達の作業を見守っている。
　アウトドアクッキングが趣味の望月は、動きに無駄が無い。

「外で喰うのでなければ、皮を剥いて軽く洗ったものを、らっぷふぃるむでくるんで、電子れんじで加熱するのが楽なのじゃが……」
　望月を手伝いながら、いいなは妻にボコられる爺を尻目に、一つ息を落とす。
　まあ、そう言っても仕方あるまい。

「こんにちは……皆さん、ご精が出ますね……」
　瑠奈達が会話に花を咲かせる作業中、穏やかな声に振り返れば、小鳥達を肩に乗せた御巫時子がおっとりと微笑んでいた。
「こんにちは！　時子さんも、噂を聞いて来たの？」
「ええ、お散歩でたまたま傍を通りかかったら……鳥さん達が、こちらの庭先で楽しい事が起こりそうと、教えてくれました……お困りのご様子ですし、私もお手伝いさせていただきますね……」
　時子は、ろっこん【鳥の囀り】の力で、鳥達と会話する事が出来る少女だ。
『時子、トウモロコシ僕ニモチョウダイ！』
『私モ欲シイナー』
「ええ、耕作さんに分けていただけるよう、お願いしましょうね……」
『ワーイ♪　時子ダイスキ』
　指で優しく小鳥の額を撫でながら、時子も瑠奈に並んで、収穫したばかりのトウモロコシを手に取り、皮を剥き始める。

「北海道は札幌の名物、焼とうきびってどんなかな？　甘辛醤油味って聞いたけれど。作り方を知っている人がいたら一緒にやりたいな！」
　瑠奈は竈を作っている、望月達に目を留めた。
「すっご～い、準備万端みたいだね。時子さん、私達もあっちに合流させてもらおっか？」
「そうさせて頂きましょう……茹でるのも、焼くのも美味しいですよね……」
　剥いたトウモロコシを抱えて、瑠奈と時子が、他の面々が竈に集まった。
『僕ハ、焼カナイデ、ソノマンマデイイヨ♪』
　時子の肩の上で、軽やかに小鳥が歌う。
「ふふ……やっぱり鳥さんは、生の方がお好きなんですね……」